運のいい人・悪い人

2016-05-25 執筆者:佐藤 史子

パナソニック創業者の松下幸之助は、新入社員の面接で「キミは運がいい方? 悪い方?」と聞いて、「運が悪い」と答えた人は、どれだけ学歴や面接の結果がよくても不合格にした、という有名な話があります。

この「特定の人の運の良し悪し」の根拠を検証する面白い研究を重ねて来た心理学者がいます。イギリスの心理学者のリチャード・ワイズマンです。彼は、なぜ特定の人の運がよいのか明らかにすべく、数年がかりで数百人を対象に心理実験を行ってきました。例えば以下のようなものです。

「自分が幸運に恵まれていると思っている人」と「自分はついていないと思っている人」を同じ数だけ選び、「新聞に載っている写真の数を数えて欲しい」と依頼します。そして、その紙面の中央にかなり大きな記事広告で「実験の担当者にこの記事を見たと言えば、あなたはボーナスとして100ポンドを受け取ることができます」と掲載しておきました。その結果、自分は運がないと思っている人たちは写真を数えるのに一生懸命で、そのページの実に半分を占めるほど大きな記事広告に気づいた人はいなかったそうです。逆に「自分は運がいい」と思っている人たちは、ほぼ全員が記事に気づき「100ポンドのボーナス」を手にすることができたのです。

これらの研究の示唆としてワイズマンは、長年の研究結果により「運のいい人はチャンスに気づいたり、自らチャンスを作ることに長けており、直感に従って幸運を呼ぶ判断を下すことができる。物事を前向きに予想することで自らが期待する結果を招き、快活な態度で不運を幸運に変えることもできる」とまとめています。新たな機会や経験にオープンで、前向きでエネルギッシュな特徴がある、と言うのです。逆に、運が悪いと思っている人は控えめで頼りなく、目の前にあるチャンスを見つけて生かそうという姿勢が見られなかった、としています。

こう考えると、なぜ松下幸之助が採用面接で冒頭のような質問をしていたか、よく分かります。単に楽観主義がよい、ということではなく、幸運を呼び込む行動特性そのものが、ビジネスを良い流れに方向づけたり、ひいては本人の成長につながり、それがまた次の成果を生むという好循環に繋がる、ということではないかと思います。

キャリア形成の過程でも、個人の思い込みが選択の幅を狭くしたり、チャンスをミスしてしまったり、ということは時としてあります。どんな環境の変化に対しても、柔軟さと好奇心を持って取り組み、楽しみながら進むことの大切さを、この研究が示唆していると思います。

キャリア形成の中で「運のいい人」であり続けるために、これまでの思い込みをちょっとだけ外して、自分の直感に従って規格外の行動をしてみることも、時には良い結果を生むかもしれません。

佐藤 史子 / Fumiko Sato
【経歴】
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。新卒で大手新聞社に入社し、取材記者として勤務。その後大手総合人材サービス会社を経て2008年より現職。人材業界でのキャリアは通算15年以上にわたる。

【担当領域/実績】
コンサルティング業界担当。毎年年間200名以上の候補者の転職やキャリア形成をサポート。外資系戦略コンサルティングファーム、総合系ファーム、会計系財務アドバイザリーファームを中心に業界でのネットワークを広く持ち、現役コンサルタントの方々との日々のコンタクトを通じて業界の生の情報に触れ、コンサルティング業界の最新動向やキャリア形成に関する知見を磨く。これらをソースにした的確な転職アドバイスに強み。大手ファームへの転職支援はもちろん、ポストコンサルの方々のファンドや事業会社のコアポジションへの転職支援実績も多数。