ヘッジファンドとは? どんな人が求められる?
ヘッジファンド(Hedge fund)と言えば、ジョージ・ソロス、レイ・ダリオといったカリスマ的なファンドマネージャーや、年収数千億円という桁外れの報酬を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。一方で、ヘッジファンドがそもそもどういったものなのか、その実態についてはよく分からない、という声もよく聞きます。ここではヘッジファンドについて、その代表的戦略や、どんなキャリアの人が親和性があるのかという点から読み解いていきます。
ヘッジファンドとは
ヘッジファンドは、投資家から資金を預かり、様々な金融商品を組み合わせてリターンを生み出すことを目的とした、運用のプロフェッショナル集団です。その意味では投資信託と同じですが、伝統的なロングオンリーの投資信託は運用方法に制限があり、相場が下がると利益が出せない一方、ヘッジファンドは相場の上下に関係なく利益を出すことを追求する点に違いがあります。明文化された定義はないものの、黎明期のヘッジファンドで導入された以下のような特徴が、そのまま定義のように用いられてきた現状があります。
1)私募形式
2)空売り、レバレッジを多用
3)ファンド運用者の自己資金を投入
4)高額な手数料と圧倒的な成功報酬
投資家の立場から見たとき、ヘッジファンドは優秀な運用業者としてみることが出来る一方、株・債券といった伝統的資産とは異なる動きをするアセットクラスとして捉えることが出来ます。1990年代以降、運用成績の良さから多くの関心を集めるようになり、資金の総額は膨れ上がっていきましたが、2008年の金融危機を境に期待されるパフォーマンスを出すことが出来ず撤退するヘッジファンドも続出しました。今後も高リターンを達成していくために、ヘッジファンド業界は以下に紹介していく手法をさらに高度化していくでしょう。
●株式ロング・ショート
ヘッジファンドをヘッジファンド足らしめた手法で、現在もカテゴリー別資産規模で最大となっています。割安の株式を買い、割高の株式を売っていく戦略であり、株価の値下がりからも利益を獲得する機会が生まれ、より機動的な運用が可能になります。
この戦略を理解する鍵は、ポートフォリオの組み方にあります。その組み方には、①単純に上がりそうな銘柄を買い、下がりそうな銘柄を売っていった結果、ポートフォリオになるパターン(買いと売りの銘柄は個別に判断)、②相対的に強い株と弱い株の「セット」を集積していくパターン(買いと売りをセットで判断)の2つがあり、後者にこそ投資判断の妙味があると言ってよいでしょう。②の手法においては、個別銘柄自体は絶対的な収益源とはとらえず、あくまでセットとしての利益と考えます。セットとなるのは同業の会社や、バリューチェーン上で関連する企業同士であることが多くなります。例えば、医薬品セクター内での売りと買いを組み合わせた場合、医薬品産業全体に関係するマクロ要因の影響は相殺されるため、純粋に、選んだ2銘柄の強弱差が収益源となってきます。
株式のヘッジファンドは基本的にこの戦略が原点となりますが、数理的手法を用いた多くの派生形が存在します。例えば、裁量的な売買よりも統計的手法を多く用いる場合もあり、それらはStatistical Arbitrage(統計的裁定取引)を略してスタット・アーブなどと呼ばれることもあります。この戦略は、数多の上場株式の価格の相関性を分析し、銘柄間の価格差が限度に達した際に、価格差の収斂にベットするものです。債券アービトラージ的な発想を株式に適用したものであり、より数理的な側面が強いと言えるでしょう。
その他にも、株価の決定要因を売上や利益率のみならず、為替やテクニカルチャートなど数十ものファクターに分け、回帰分析モデルを組むことによって株価を説明しようとする手法などもあり、数理的手法(クオンツ)を用いた投資の可能性はますます広がってきていると言えるでしょう。
【相性のよい経歴、スキル】
企業のファンダメンタル分析・バリュエーション能力が求められるため、株式リサーチアナリストの経験が活かされます。マーケット部門以外に投資銀行分野の経験者も採用対象となっており、門戸は比較的広いと言えるでしょう。また、ポートフォリオ・マネージャーの人数も他戦略に比較して多く、これは、自身の売買が価格に及ぼす影響を回避するべく、分散投資を進める傾向があるためです。
●イベント・ドリブン
企業の買収合併、IPO、株価指数銘柄への組み入れ、不祥事の顕在化などのイベントに着目し、収益を上げていく手法です。通常これらのイベントの際には値動きのボラティリティが高まり、大株主の思惑等によっても価格は大きく変動します。そのため、特定銘柄の需給を正確に見抜くことや、テクニカルの技術を駆使することが求められます。
また、企業の業績が悪化したり経営不振に陥ったりした際に割安に評価されているアセットを買い、価格が回復したときに利益を得るディストレスト戦略も、広義のイベント・ドリブンに含まれます。
【相性のよい経歴、スキル】
M&AやIPO等の動きにベットすることも多いため、投資銀行分野の出身者も多いですが、株式市場に触れていた方にとって、相性のよい戦略と言えます。
●グローバルマクロ
イングランド銀行を潰した男」として有名な、ジョージ・ソロスに代表される手法。かつてはヘッジファンドの花形戦略であり、90年代には大半のファンドがこの戦略をとっていましたが、現在では若干下火になりつつある手法です。グローバル・マクロ戦略のひとつの特徴は、まさに「何でもやる」ことにあり、世界中のどの市場でも、どの商品でも収益チャンスとして常に機会をうかがっています。
経済動向や政策的背景とそれに伴う資本のフローが分析の出発点となり、特定国へのキャッシュ・インフロー、アウトフローなどに着目します。そのため、経済・政策への深い洞察が必要になってきます。加えて、債券市場に保有されていたお金が景気回復で株式市場へ流出したり、債券や株式というカネの世界から不動産やコモディティに投資マネーが振り分けられたりといった大きな資金循環をとらえる大局観も必要とされます。資本フローに基づいた収益チャンスを発掘し、市場方向性(トレンド)にベットする戦略なので、市場中立型や裁定取引形とは異なり、ダイレクショナル(directional)戦略に分類されます。
グローバル・マクロのもうひとつの特徴は、基本的に流動性が高い金融商品に投資することです。流動性が高く分かりやすい商品に投資しているため、どこで儲けてどこで損をしたかが極めて説明しやすくなります。売買したものが正しかったか、間違ったかだけです。「複雑なデリバティブ商品の時価評価がずれていた」、「運用システムが今期の市場動向では上手くパフォームしなかった」というような運用の“ブラックボックス化”が起こりにくくなっており、この点はファンド運営の上で意外と重要になってくる要素です。一般に、システムトレードやクオンツファンドなどはパフォーマンスが悪化した際に、なぜ悪かったかを説明しにくいため、投資家の不信感がつのって一気にファンド解約になるケースも多いのですが、負けた理由に対する説明責任を果たせば、急激なファンド解約は比較的抑えることが出来ます。
同様に多くのアセット・商品を扱う戦略にマネージド・フューチャーズがありますが、①人間による裁量型ではなく、コンピュータを駆使したシステム売買がメイン、②現物資産よりも先物・オプションへの投資がメイン、といった点でグローバル・マクロとは異なります。
【相性のよい経歴、スキル】
マクロの名を冠する通り、マクロ的な経済動向を読み解く能力が必要なため、債券・為替分野の出身者が多い印象です。シングルプロダクトの経験のみでマクロ経済の知識が不足しているキャリアの方は、マクロ経済の知識を身に着け、より多くのアセットクラスに触れる経験を持てば、転職の際にプラスに働くと考えられます。
また、マネージド・フューチャーズでは、コモディティ・トレーディングやクオンツ・アナリストの経験は相性が良いと考えられます。
●転換社債アービトラージ
この戦略は、同一の企業が発行する転換社債をロングし、株式をショートしていく手法で、以下の2通りの状況に分けて理解できます。
① 株価上昇時には、転換オプション行使により収益確保(株の空売り分はロスが出るが、転換社債の方の購入量が多いため、ネットでのプラスを達成可能)
② 株価下落時には、空売りした株式からの収益確保(転換社債はオプションを行使せず、あくまで債券としてのFixed incomeを得る)
この構図によって、株価が上昇しても下落しても収益を出せることになります。一方で、株価のボラティリティが低下し、値動きの少ない場合には、転換社債の転換オプションを行使できない上、株の空売りからも利益が出ない、という状況になり戦略の優位性は失われます。日本の金融マーケットが成熟し、裁定機会が減少しているため昔のような「濡れ手に粟」状態ではなくなっていますが、依然としてひとつの運用戦略にはなっています。
【相性のよい経歴、スキル】
転換社債など、オプションなどを用いた資産の価値評価を多く伴うため、高度な金融工学の知見を要します。また、ひとつひとつの投資機会の利ざやは薄いため、大量の資金に高いレバレッジをかけて運用できる資本力の強固な運用主体に所属できることも条件になってきます。
●マルチ・ストラテジー
上記の戦略を組み合わせ、複数のストラテジーで投資を行う手法です。しかし、内部ではそれぞれの手法ごとに部門に分かれていることが一般的で、同一の運用者が複数戦略を駆使して運用するわけではありません。その特性上、グローバルな大型ファンドに多い手法であると言えるでしょう。
まとめ
いずれの運用戦略であっても、ヘッジファンドは絶対収益を目的としているため、結果がすべてになります。相場の下落局面でも収益を上げる事が求められ、単年度でのパフォーマンスが低ければ投資家から投資資金を引き揚げられるため、長期投資とはまた違ったマーケットの見方が必要になります。
常に市場の変化や情報に対して敏感であり続けられる方、また市場を追い続ける事に情熱を傾けられる方が、ヘッジファンドには向いていると言えるかもしれません。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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