プライベートエクイティ人材とベンチャーキャピタル人材の違い

2019-11-13 執筆者:小倉 基弘

企業体に投資するファンドという分類としては同じように見えるプライベートエクイティ(PE)とベンチャーキャピタル(VC)ですが、中身(投資対象、投資スタンス等)はまったく違い、かつそこで活躍する人材のバックグラウンド、スキル、キャラクターも異なります。

職業柄、私たちも「投資ビジネスに興味があるので、PEでもVCでも良いから案件を紹介してくれませんか」というリクエストを受ける時がありますが、そもそもこういった質問をしてくる方は、PEについてもVCについても理解していない場合が多いようです。なぜならPEに応募可能な人材のバックグラウンドはVCでは受け入れられず、VCに応募可能な人材は通常PEの採用基準には当てはまらないからです。

以下にPEとVCで働く人材の違いを説明します。

投資対象、投資スタンスの違い

PEの投資対象は、ステージとして成長期は過ぎて安定期以降に入っており、安定的なキャッシュフローが見込まれる企業です。ここに51%以上のマジョリティー投資を行い、通常は1社(1ファンド)単独で経営権を取っていきます。そのため、投資先は伝統的な産業(メーカー、小売、外食、流通等)が多くなっています。

これに対してVCの投資対象は、シード段階のStartupやアーリーステージ、さらにサービスもしくはプロダクトがある程度形になっているシリーズA、それを市場に広めていく段階のシリーズB、レイターステージのシリーズCの各段階にいる若い企業になります。対象業界も最近でいえばAI(人工知能)、ロボティクス、フィンテック、SaaS、バイオ、宇宙航空など、今後急成長が期待できる業界にフォーカスされています。投資スタンスもマジョリティーを取ることはなく、通常は複数のVCでシンジケートを構成します(その内もっとも投資額が大きく、企業との交渉などの窓口になるVCがリードインベスターと呼ばれます)。投資先が多いため、経営自体は創業者及び現経営陣に任せていく形を取ることが多くなります。

人材の経歴、スキル、キャラクターの違い

PEの投資担当者は、フロント人材が10名がいるとしたら、うち7名程度がM&A経験者(投資銀行/日系大手証券会社出身者)もしくは同業のPE出身者、2~3名が戦略系コンサルティングファーム出身者、0~1名がM&A弁護士となっています。これは、投資前には精緻なファイナンシャルモデリングのスキルが必須になり、また投資後はバリューアップスキルが必要になるためです。

一方、キャピタリストにはこういったモデリング、バリュエーションスキルは必須ではありません。VCの投資対象企業には事業計画書はあっても収益が計上されている財務諸表はまだないことが多く、見るべきものはビジネスモデル、提供予定のサービスもしくはプロダクト、そして創業経営者の資質になります(レイターステージでの投資はこの点、違いがありますので後程触れたいと思います)。そのため、バックグラウンドとして好まれるのはAIやフィンテックといった投資対象業界の知見を豊富に持っている、自身に起業経験がある(理想的にはExit経験もある)、Startupでの就業経験がある、同業のVC出身者、といった人材になります。

こういったバックグラウンドの違いから双方には文化の違いもあり、それが服装やキャラクターにも表れています。例えばPEではスーツを着ている方がほとんどですが、VCではジーンズにTシャツといった姿が典型的なスタイルです。わかりやすく言えば、PEは固い(重い)イメージ、VCは柔らかい(軽い)イメージ。これは服装だけでなくオフィスの雰囲気についても同様です。

また、PEは上述のように1社でマジョリティーを取る方式で他のPEがコンペティターになるため(私的なものは別として)PE間の交流はほとんどありませんが、VCはシンジケートを構成して投資する場合が多いためキャピタリスト同士の繋がりが強く、Startupを交えた交流会が盛んに行われています。

共通する部分(PEグロース/VCレイター)

ただし、PE投資の中でもグロース投資といったカテゴリーの場合、VCによるレイターステージの投資と対象企業が被る場合があります。例えばPEの代表格であるKKRが近年スタートアップへの投資を加速させており、米国のライドシェアサービス「Lyft」や中国のモバイル向けショートムービープラットフォーム「TikTok」を運営するByteDanceなど、世界の名だたるスタートアップに投資をしています。さらには日本のStartupへの初めての投資としてフロムスクラッチのシリーズDでリードインベスターを務めたことも話題になっています。この領域(シリーズC、シリーズD)については今後、PEも積極的に投資を実行してくる可能性が高そうです。


以上、PEとVCの違い、またそこで働くプロフェッショナルのバックグラウンドの違いを述べました。それぞれのビジネスは、資本と人材が重要な成功要因となります。私たちアンテロープはこの人材という貴重な資産について、それぞれの投資プロフェッショナルまた投資先事業会社及びStartupのCxOのご紹介に注力しており、この分野のジョブマーケット創造の一助となるよう努力を継続しています。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。