新型コロナウィルスがジョブマーケットに与える影響

2020-04-16 執筆者:小倉 基弘

昨年(2019年)末に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウィルス感染に端を発したパンデミックにより、現在も人々の行動に制限がかかり経済活動に大きな支障を与えています。当然ジョブマーケットについても採用抑制、見直し等により徐々にネガティブな状況になってきています。

2002年4月にアンテロープを創業してから、何度か景気の下降局面を経験しました。創業したばかりの時期は世界的なITバブルが弾けて、既に経済は下降局面の最終段階に入っている時期でした。その年の10月9日に米国のナスダック総合指数が1,114.14ポイントをつけピーク時から77.9%の下落を記録しています。

その後、2007年後半までは順調に景気も回復しましたが、2008年9月に当時全米第4位の投資銀行であったリーマン・ブラザーズがサブプライムローンの大幅な値下がりによる経営破綻をして、金融業界を中心に一気にリセッションに入りました。

さらに追い打ちをかけるように(と言っても、これを記憶されている方はあまりいないようですが)2009年3月にメキシコで発生した新型インフルエンザが世界的に流行し、同年6月にWHOがパンデミック宣言をしています。日本でも120万人が感染し、世界で28万人が死亡(米疾病対策センター(CDC)発表)したという記録が残っており、終息宣言が出されたのが2010年8月であったので、1年半位の期間にわたって今ほどではないにしても経済活動にもマイナスの影響を及ぼしていました。

その後、少しずつ経済活動も正常に戻る方向に向かっていると感じられた時、2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。加えて津波による福島第一原子力発電所のメルトダウンが発生、放射線物質が大量に大気中に放出されたことによる経済活動の停滞が半年近く続きました。

エージェントとして感じていた実感値としては、2012年後半からやっと少しずつ経済も正常な状態に回復してきて、これが2019年後半まで継続してきたと考えられます。

上記の期間、数値的にみると2002年から2007年までが景気の上昇期間(有効求人倍率が0.54から1.06まで上昇)で、2007年をピークに2010年までがリーマンショックと新型インフルエンザによる急激な下降局面(有効求人倍率1.06から0.52まで下落)になり、その後ゆっくりと2012年まで上昇し、2012年の後半からはっきりと景気拡大期(有効求人倍率0.52から1.6まで上昇)になり昨年末を迎えています。

今回の新型コロナウィルスは、既に世界全体で190万人が感染しており死者は12万人を超えています(2020年4月14日現在)。日本では緊急事態宣言が発令され、東京では外出自粛が強く打ち出されています。ジョブマーケットだけを考えれば、この外出自粛、海外渡航禁止等が強く影響する観光業、外食産業、また部品製造を中国等の海外サプライヤーに依拠しているメーカーは強い打撃を受けており、場合によってはリストラによる人員削減を行うことになるかもしれません。また、こういった業界にモノ、サービスを提供している業界、企業も当然影響を受けることになります。

エージェントも総合的に対応しているところは、上記セクターについてはしばらく採用自体がなく厳しい状況が続くと思われます。ただ、私たちのように金融、コンサルティング業界に特化したカテゴリーキラー的なエージェントについては、徐々に影響は受けるものの、リーマンショックのように世界に大量に流通していた金融商品の資産価値が限りなくゼロに近くなり金融機関が機能不全に陥った状況に比べれば、時間は多少かかるもののおそらく1年以内には十分回復してくるものと推察できます。

現状は未知なるウィルス感染の拡大阻止のための外出規制、行動制限による経済停滞であり、経済そのものに原因があって下降局面に入っている訳ではありません。

今後の感染者数拡大、ワクチン開発の遅れによってリセッションが長期化する可能性もありますが、そもそも業界自体が発展途上で成長余地のあるIT、AI、ロボティクス、バイオヘルスケア等の業界については資金ニーズも強くあり、金融、コンサルティングを含む周辺産業も一時的な停滞はあるにしても人材ニーズが長期的に衰えるとは考えにくいと思われます。

また、今回の新型コロナウィルスの影響は負の側面ばかりではなく、リモートワークが強制的に実施されたことによって特にサービス業においては効率化が図られており、移動が制限されたことで人がその場に行かなくてもパフォームできることが証明された仕事も多々あったのではないかと思われます。

このように経済全体の効率性、生産性が上がることによって更に知識労働者を必要とする業界は多くあり、エージェント業界も一定期間の停滞を経て立ち上がってくるものと思います。

個人においてもリモートワークが当然となったことで、自身の人生について考える時間をより多く持てるようになったのではないでしょうか。従来のような考え方が大きく変化し、それによって多様な生き方、働き方が当たり前になることで有益なサービスを提供するエージェントを更に利用されるようになることを期待しています。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。