PE投資先CxO人材マーケットについて

2021-04-12 執筆者:小倉 基弘

昨年4月以降コロナ禍により経済全般は停滞気味ですが、PE(プライベートエクイティ)業界は全体的にみると2020年4月、5月に緊急事態宣言が発令された直後に投資が一旦ストップしたこと及び一部のポートフォリオ(外食、ホスピタリティ系企業)が打撃を受けていること以外は大きな影響は受けていないようです。

アンテロープはPEのフロント人材の紹介をメインとしながらもその投資先CxO人材紹介をPEの投資前、投資後の支援として行っています。
投資先CxO人材については他の人材以上に企業業績へのインパクトが大きく、どういった人材がCEO、CFO、COOに着任するかでその後の企業パフォーマンスも大きく変化し、結果的に投資の成否に影響する為、各PEとしてもCxO採用には慎重になることは当然です。

PE各社からの弊社への投資先CxO人材の求人についてもここ数年の投資案件増加に伴って増えており、弊社もその内、昨年は70件程度のCxOポジションのオーダーをいただいています。

今後も多少のボラティリティはありながらも投資件数は増えていく傾向にあり、それに比例してCxO案件も増加していくものと思われます。

2000年前半迄の時期には複数の企業で成果を上げる「プロ経営者」という言葉はなく創業オーナー社長もしくは雇われ社長(サラリーマン社長)というマネジメントしかいない状態でしたが、PEという業態が日本に現われ始めてから既に20年が経ち、投資先に派遣されるマネジメント人材が徐々に認知されるようになり、それに伴い、PE投資先にて企業を再生させる、またグロースさせるプロ経営者の人材マーケットも形成されています。

ただエージェントの立場からみているとこれらのやりがいのある職務は「プロ経営者」という職業としては社会的にはまだ認知されておらず、ジョブマーケットとしてはまだまだ小さいパイであると思います。
背景としては一つだけではないですが、職業としてのリスクの割合に対して報酬が見合っていないことがあるかもしれません。
PE投資先CxOという職業は以下のような特殊性があり、そのうえで確実に成果を出すことが求められています。

・株主がファンドである
・短期間に成果を出すことが求められている
・バイアウト・ファンドから派遣の形態を取るため投資先企業の経営陣、従業員に対する短期間での人心掌握が必要
・バイアウト・ファンドとの信頼関係構築、頻繁なコミュニケーションが必要
・エグジット後のステイタスが不透明

上記のような環境の中、企業を成長させるCxOに対して提示されるコンペンセーションは、例えばCEOだとしても「1500万~2500万円+ストックオプション」といった水準が平均的になっています。

この水準が例えば「3000万~5000万円+ストックオプション」となり、それに伴い、選考ハードルも高くすることによって、この「プロ経営者」という職業はもっと価値のあるものになるのではないかと思っています。

もちろん年収が高くなれば「プロ経営者」のマーケットが確立するような簡単な話ではありませんが、必要条件の一つであると思います。

今までの日本はサラリーマンの延長線上にマネジメントという職業が存在しており、今もそれが主流ですが、「プロ経営者」という職業選択ができるようになれば、例えば大企業から子会社のマネジメントとして出向するようなキャリアやプロフェッショナルファーム(コンサルティングファーム、投資銀行等)を経て中小規模の事業会社のマネジメントになるようなキャリアからプロ経営者を目指すようなキャリアパスが脚光を浴びてくるかもしれません。

こういった方々が遣り甲斐を持って働いていけるような機会提供を行えるよう私たちエージェントもこのマーケットの確立のためにPEとの対話を深め、一方で能力のあるCxO人材の見極め、発掘を進めていきたいと思います。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。