仕事において高いパフォーマンスを発揮するということは、与えられた環境や条件に左右されず、自らの意思と工夫で価値を生み出す力を持つことです。それは単なるスキルや知識の問題ではなく、人生を自分で切り拓いていくための「生きる力」の核心にある資質と言えます。
この「生きる力」を象徴する古典的なエピソードとして、エルバート・ハバードの短編『ガルシアへの手紙』(角川文庫)があります。米西戦争(1898年)中、米大統領からの極秘の手紙を「広大なキューバの山々のどこかにいるが、誰もその所在を知らない」反乱軍のリーダーである「ガルシア将軍」に届けるという任務を与えられたローワン中尉は、状況の詳細を尋ねることもなく、ただ「わかりました」と答え、即座に行動に移します。困難な道のりであろうとも、条件が不明であろうとも、命じられた任務を全うするために最善を尽くす。この行動、そして成果を出す姿勢こそが、真のプロフェッショナリズムであり、自立した人間の姿とされています。
普通の人にこのような無理難題を頼んだら、多くの人はいい顔をせず、「ガルシアはどこらへんにいるのですか」「どうやってやるんですか」「何の為にやるんですか」「なぜ私が担当なんですか」「急ぐことですか」などと質問して結果的に何の成果も上げないでしょう。
この精神は、現代の仕事やキャリアにもそのまま通じます。たとえば転職の場面。私たちは日々、多くの方のキャリア支援に携わっていますが、新天地で企業に信頼される人材にはある共通点があります。それは、配属や組織体制、業務範囲が事前の想定と違っていても、「自分に何ができるか」をすぐに考え、成果を出すために動ける人です。彼らは環境の不備や組織の制度上の問題点を言い訳にせず、むしろ自分の介在価値を発揮する機会としてとらえます。
一方で、「思っていた会社と違った」「やりにくい」「制度が整っていない」と言って立ち止まる人もいます。そのような人材は、どの職場に行っても同じ問題にぶつかり、なかなか長続きしません。求められているのは、完璧な環境の中でしか働けない人ではなく、整っていない環境の中でも「まず動き成果を出す人」なのです。
これは、起業という選択肢にも強く結びつきます。起業とは、究極のキャリアデザインとも言える行為です。しかし、その始まりは多くの場合、資金も限られ、顧客もゼロ、社内オペレーションも整っていないという「ゼロからの出発」です。つまり、起業とは「自分にガルシアへの手紙を託す」ようなものです。誰も道順を示してくれず、誰も正解を保証してくれない中で、自分の手で進むべき道を切り拓いていかなければなりません。
そこで必要とされるのは、まさにローワン中尉のような「まずやってみる力」です。指示が曖昧でも、環境が整っていなくても、「とにかく前に進む」「自分で考え、自分で動く」という姿勢。それこそが、起業家を支える精神的土台であり、どんなキャリアにおいても通用する本質的な力です。
『ガルシアへの手紙』が現代まで読み継がれているのは、それが時代や職種を超えて通じる真理を描いているからです。誰かに依存せず、状況を言い訳にせず、自ら行動する。この精神を持つ人は、どんな転職先でも信頼され、求められる存在になります。
だからこそ、目の前の仕事に真摯に向き合い、たとえ条件が整っていなくても「自分にできる最善は何か」を問い続ける姿勢が重要なのです。それはやがて、自分自身の力となり、人生を自由に設計していくための基盤になります。ガルシアに手紙を届ける人間であり続けること。それが、どの時代においても最も普遍的な成功の条件であり、何よりも強い「生きる力」なのです。

- 【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。
【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。













