VC業界志望者向け推薦図書 その1【起業家理解編】

2019-03-27 text by 藤本 光

昨今の独立系VC/CVCの新たなファンド組成にともない、弊社で扱うVC業界の求人も増えてきました。キャンディデートの方々からの要望もあり、今後定期的にVC業界志望者に向けて参考図書を案内していきたいと思います。


VC業界志望者向け推薦図書 その1【起業家理解編】


『HARD THINGS~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』ベン・ホロウィッツ(日経BP社)

『HARD THINGS~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』

第1章 妻のフェシリア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う
第2章 生き残ってやる
第3章 直感を信じる
第4章 物事がうまくいかなくなるとき
第5章 人、製品、利益を大切にする―この順番で
第6章 事業継続に必要な要素
第7章 やるべきことに全力で集中する
第8章 起業家のための第一法則
第9章 わが人生の始まりの終わり


こちらの本は起業家理解の参考になる本です。一人の起業家がどのような困難にどのような姿勢で向き合い、経営者として多くの困難に立ち向かってきたのかが描かれています。

著者のベン・ホロウィッツはシリコンバレーの著名VC、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラル・パートナーです。この本の前半部分では、彼がVCを創業する前に立ち上げたテクノロジー企業である、オプスウェア(2007年、16億ドル超でヒューレッド・パッカードに売却)のCEOとして、起業から上場、売却までどのように困難を乗り越えてきたのかがメインに書かれています。

ビジネスの急速な拡大、それに伴うメンバーの役割の変化。資金繰りの悪化による倒産の危機と、それを回避するために企てた無理な株式公開。インターネットバブルの崩壊による自社株価の急落。唯一の大口クライアントを失いかねないトラブルや上場廃止のピンチといった、心休まることなく直面する問題と向き合い、乗り越えてきた実体験が描かれます。

一方、本書の後半部分はCEOとして社員を率い、事業を拡大させる中で著者が大事に思うに至った価値観・起業家観・組織観にページを割いています。物事がうまくいかなくなり、辛いときに役に立つ考え方、働きやすい会社づくり、会社が困難に直面したときに事実をありのままに語り、改善に向けて協力を仰ぐことの大切さ、社員への教育、成長の機会を与えることの重要性など、単なる経営のノウハウではなく、経営の土台となる経営者の心構え・考え方が惜しみなく書かれてある本です。

経営者は基本的に孤独です。社員の前では決して弱みを見せず強いリーダーシップを発揮し、投資家の前ではターゲット達成のために「現時点で最も良いと思われる策」を打ち続けることが必要になってきます。この本には、ベン・ホロウィッツが目の前の困難に対し、どんなことを考え、どのように社員を率いてきたのか、臨場感を持って描かれています。これは、どんなスタートアップの企業でも、大なり小なり経験することです。日々の変化はめまぐるしく、「昨日正しいと思ったことが、今日は間違っている」ことが多々あります。刻々と変化する状況の中で、スピーディーな意思決定と問題の解決を求められます。

将来、キャピタリストとしてのキャリアを真剣に考えているのであれば、この本は起業家が問題に直面したときにどの様に寄り添い解決をサポートできるかを考えるきっかけになると思います。

キャピタリストの仕事は、数字を見ているだけでは務まりません。起業家の成功の可能性をいち早く正確に見抜く“目利き力”が求められ、さらに投資後は経営支援を行いバリューアップに貢献しなければなりません。また、10年なら10年というファンド期限がある中で、どの時期にExitをするかがファンドのリターン率に関わってくるため、市況に対する先見性も必要になります。そこでは、高いレベルでの論理的思考力や分析力、問題解決能力に加え、多くのステークホルダーを巻き込み、目標に向かって進む人間性も求められます。アメリカでベンチャーキャピタリストがインベストメントバンカー以上に憧れられる職業なのは、上記のようにビジネスパーソンとしての総合力が求められるからとも言えます。

さて、キャピタリストという職業は成功するスタートアップの影の存在として捉えられることが多く、その活動が世間一般にアピールされることはあまりありませんが、世界的ビジネス誌「Forbes」では毎年もっとも稼いだキャピタリストを「Midas List」との名で発表しています。Midas とは触れるものすべてを黄金に変えたとされる、ギリシャ神話の王の名前。そしてそのリストに名前が載るキャピタリストはfacebook、Youtube、Airbnb、Uber等に投資し、その成長をサポートしてきた当代一流の面々です。この本の主人公であるベン・ホロウィッツと、共同創業者であるマーク・アンドリーセンもこのランキングの常連です。

このMidas Listに掲載されるキャピタリストの出身業界についてみてみると、一部重複はあるものの、ほぼ同比率でコンサルティングファーム、投資銀行、ベンチャー企業、エンジニアという4つの業界に分かれます。ここまできれいに分かれるのは、主に創業期~アーリーにかけてはベンチャー企業あるいはエンジニア出身者の手腕が光り、IPO手前のレイター期ではコンサルティングファームや投資銀行出身者の活躍の領域が多くなるからと考えられます。

日本でも、戦略ファーム出身者を好むVC、事業会社で新規事業を行ってきた方を好むVCなど、各社の人員構成や投資方針によって求められるバックグラウンドはさまざまです。ただ、日本ではまだエンジニア出身のキャピタリストは少ないのが現状です。米国の流れが日本でも踏襲されるのであれば、近い将来エンジニア寄りのキャピタリストへの採用ニーズがもっと出てくるかもしれません。

私達は日々多くのVC関係者の方とコミュニケーションをとりますが、その中でも先日訪問したあるVCでキャピタリストの方がおっしゃった言葉が強く印象に残っています。その方は一部上場企業の共同創業者を経て、現在はVC事業をされており、圧倒的なファイナンシャルリターンをファンドにもたらしている方です。シンプルではありますが、キャピタリストとしてのマインドセットがここに集約されていると思いました。

「人生をかけて起業する起業家とともに全力で経営支援をし、自身も成長したいと考える人が欲しい」。

この本の著者であるベン・ホロウィッツの歩いてきた道は、まさにこの言葉通りなのかもしれません。我々アンテロープでは、ベンチャービジネスの発展に貢献したいという熱い思いを持ったキャピタリスト志望者のご登録をお待ちしております。

藤本 光 / Hikaru Fujimoto
【経歴】
筑波大学生物資源学類卒。女性の子育て支援を推進するベンチャー企業に、営業/広報担当として従事。中国留学を経て、日系半導体メーカーにて幹部候補として上海・香港・深センに駐在。その後シンガポールの人材エージェントにて、金融・ITに特化したバイリンガルの管理職人材を日系大手上場企業に多数紹介し、事業拡大・会社の経営に貢献。2018年、アンテロープに参画。

【担当領域/実績】
コンサルティングファーム、ポストコンサルポジション(大手外資系企業/大手日系企業/スタートアップ)、ベンチャーキャピタル等を担当。