本コラムでは、PEファンド(バイアウト・ファンド)の面接対策について述べたいと思います。
アンテロープは2002年の設立当初から、当時黎明期だったPEファンドへ人材を紹介しており、投資担当者として採用された人数は200名を超え、国内で活動する主要なPEファンドの大半には弊社経由で入社をした方々がおられます。
私自身は2004年から本業務に従事をしており、PEファンド各社での選考内容を理解しておりますので、今回はそれらの情報を踏まえてPEファンドの面接を受ける上で少なくとも押さえておくべきポイントを説明致します。
~PEファンドの選考内容~
PEファンドの選考について一般的なパターンを述べると、面接(4回以上など回数は多い)+モデル試験という形式です。1次面接~2次面接で初期的なセレクションを行った後、モデル試験を実施します。これらの前半戦を突破した応募者がシニアメンバー(例:MDやVP以上全メンバー)との面接へ進みます。
<モデル試験>
モデル試験は、例えば2時間程度で財務三表連動の財務モデルやLBOモデルの基本的なものをスクラッチから作成した上で、その内容について30分から1時間ほど面接をします。
この面接の予定が事前に設定されて、その1週間ほど前に応募者へ資料と問題が送付されて面接日までに作成して提出します。
リモート面接が主流となった最近は、面接開始時に資料と問題がメールで送付されて、オンラインで参加した状態でモデル作成に取り組み、完成後に面接をする形式もよくあります。
応募者が投資銀行等のM&AのFA業務経験者の場合は、スキルをシビアに判断されます。
一方で、コンサルティングファーム出身者など非金融の応募者はFA経験者と同じ基準で評価されるのではなく、どの程度の理解をしているのか、またはきれいなモデルでなくてもその裏のロジックをどう考えたのか、などの視点で評価されます。
とは言え、まったく準備をしなければ何も作成できずPE側も検討すらできませんので、事前にEラーニング等で財務モデル、LBOモデルの勉強をしておきましょう。
<面接>
各社毎に選考内容は少しずつ異なるものの、PEファンドの面接では少なくとも次の3点が問われています。
1)志望動機
2)経歴と経験業務
3)PE投資に関するディスカッション(投資案件のケース面接の形式をとることもあり)
それでは、それぞれについて説明します。
1)志望動機
「なぜPEを志望するのか?」という志望動機を問う質問は、初期の面接における関門のひとつです。投資銀行やFAS、戦略ファーム出身の優秀な人々でも、十分に考えが深まっておらずに志望動機を上手く話せず、または答えた志望動機に対する鋭いつっこみに納得感ある回答が出来ずに不合格とされてしまうことは多々あります。
志望動機の質問に対して、準備することは2つです。
まず、PEありきではなくて「そもそも自分が何をやりたいのか?」「仕事を通じて実現したいことや満たしたい自分の感情は何か?」「自分にとって仕事の意味とは?」といった自己理解を深めることです。しっかりと内省して、自分の価値観を明確にします。
次に、PE業界及び仕事内容についての理解です。PEのビジネスモデル、産業界におけるPEの役割、仕事内容、応募先PEの特徴や投資先などについて調べて理解を深めます。
そうすると、自分が満たしたい価値観ややりたいことがPEの仕事の中にあるかどうか判断出来ます。そして、それらがあるのなら、なぜPEファンド業界なのか、その中でもなぜそのPEを志望するのか、といった考えを明確にすることが可能なはずです。
さらにここまで考えが深まれば、PEでどんな自己実現をしたいのかという考えも見えてくるでしょうから、キャリアビジョンについても明確にしておきましょう。
2)経歴と経験業務
面接では経歴をレジュメに沿って説明するだけでなく、その後で面接担当者から経験した業務や手掛けた案件について詳しく問われます。 記載した案件の概要、自分が担当した作業、そして担当外の業務内容も含め再確認しておきましょう。時々ある落とし穴として、経験の多さをアピールするために関与したM&A案件を多数レジュメに記載したものの、自分が担当した作業以外を問われると回答に窮してしまうことがあります。レジュメに書くのであれば、担当した作業以外のことについても事前に復習して理解をしておく必要があります。
あるPEの過去の面接でも、記載している案件について「対象会社のバリューの源泉は?」「何が課題だったのか?」など問われていました。
3)PE投資に関するディスカッション
「A社に投資すべきかどうか?」「投資するとしたらどの会社に投資したい?」などの意見を求められて議論をすることもあります。会話の流れからこの様な質問に発展する場合もあれば、ある会社についての基礎情報(四季報の情報など)を与えられて、その会社に投資するべきかどうかを問われることもあります。
時には応募先のPEが投資している会社について意見を求められることもありますので、事前にポートフォリオを確認をしておくことは必須です。
また、議論の過程でテクニカルなことを問われることもあります。例えば、あるPEの面接では「(投資の検討において)財務面はどの様な部分を見ますか?」「借入金が多いけれど投資検討においてどんな影響がありますか?」「LBOローン契約はどの様な点に留意すべき?」などと質問されていました。
<しっかりと事前準備を>
PEファンドでは以上の様なシビアな選考が実施されています。一見、志望動機や経歴についての説明などは基本的で簡単な質問だと感じるかも知れませんが、説明内容に対して具体的に鋭く質問されると、準備不足だと答えに窮してしまうものです。
深く内省して自己理解を深めて、かつ、PE業界や業務の理解をしておくことは大前提です。そして、レジュメに記載している経験については関与したプロジェクト等に関して担当部分でなくても話せるように把握しておくようにしましょう。
また、PEによる投資事例やM&Aの事例はプレスリリースや経済ニュース等で確認することが出来ます。それらの内容を理解するだけでなく、その企業に投資するべきかどうか? それはなぜなのか? と普段から趣味の様に考えることはお勧めです。もちろん、応募する場合はそれ以上にしっかりと準備すべきです。
以上、PEファンドの選考について概略を簡単に述べました。実際にはもっと多様な質問や会社毎の傾向があります。それらについては、弊社をご利用いただいてご応募をされる際に、丁寧にアドバイスさせていただきます。
山本恵亮
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・PE業界研究の参考図書:
PEファンド(バイアウトファンド)の仕事を理解する為の参考図書一覧
・山本の週一コラム(note):
働きがいを見つけるキャリアデザイン
・ツイッター
- 【経歴】
同志社大学商学部卒。大手人材サービス会社にて金融とIT業界を担当後、渡米。在米のコンサルティング会社で、人材採用支援、人事コンサルティング、そして新規事業の立ち上げを事業開発マネージャーとして推進し、北米での事業拡大に貢献。2004年4月アンテロープ参画、翌年同社取締役。PEファンド(バイアウト)を中心に、VC、M&A、コンサル、投資先企業の経営人材、また組織立ち上げ期におけるコアメンバー採用の支援も強み。1級キャリアコンサルティング技能士。
【担当領域/実績】
専門はPEファンド(バイアウト)、VC、エンゲージメントなど投資ファンド、投資先の経営人材など。20年のエージェント経験で培われた層の厚いネットワークを有し、業界トップから新鋭企業まで数百名に及ぶ転職を支援してきた。水面下で流通する求人案件の提案から、選考対策、希望職種の明確化も含め丁寧な支援を行っている。