偶然の連鎖

2013-06-26 執筆者:佐藤 史子

キャリアカウンセリングの代表的な考え方に「クランボルツ理論」があります。ご存知の方も多いのではないでしょうか。スタンフォード大学教育・心理学部教授のジョン・クランボルツによって提唱されたこの理論の基本的な考え方は「キャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって形成される」というものです。「Planned Happenstance=計画された偶然性」と言われることもありま
す。

実際、クランボルツ教授自身が小学生のころ、幼稚園時代の旧友と「偶然に」再会し、友人の勧めでこれまた「偶然に」テニスを始め、大学に進んでからもテニスに打ち込む日々を送り、あまりにテニスに打ち込みすぎて専攻を決めるのが遅れ、あやうく除籍処分になりかかり、親しいテニスのコーチで「偶然」心理学担当であった教授に相談したところ「心理学をやれ」と勧められ、「偶然」心理学を学び始めて世界的に有名な学者になった、というエピソードの持ち主です。

クランボルツ理論のポイントは次の3つです。
1)個人のキャリアの8割は予期しない偶然の連鎖によって決定される
2)予期せぬ出来事は本人の主体性や努力によって新たなキャリアの機会とし
  て最大限に活用可能である
3)予期せぬことはただ待つのではなく積極的に自分の周りに起きていること
  に敏感でいることで、意図的に生み出したり積極的にチャンス変えること
  ができる

つまり、あらかじめ決めた目標に合わないからといってチャンスを拒まず、仮に遠回りや無駄なことに見えても、目指している目標のために役立つかもしれない経験としてとらえたり、変化の中からチャンスをつかみ、キャリアを自発的に作っていくことの大切さを説いているのです。そして、チャンスを捉えるための行動指針として「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」が大切であると述べています。

こう書いてしまうとなんだか楽天的に、成行き任せでいきましょう、と言っているみたいですが、ここで大切なのは常に何かの意図や目標を持って行動すること。これが、偶発的に起きた出来事をチャンスの連鎖に変えるか、漫然とした脈絡のない選択の連鎖にするかの境目になる訳です。

日々、候補者の方のお話を聞いていると、真面目な方ほど「次の転職先で何年間でこのような経験を積まなければならない」とか、「自分の将来のキャリアパスに現職の経験は無意味である」と考えて悩んでしまいがちです。クランボルツが言うような偶然と必然のバランスが、実は非常に難しいのだと思います。

脈絡のない選択はもちろん危険ですが、がちがちに自分の(それも自分だけで考えた)プランに縛られても、もしかしたらすごいチャンスになる機会をミスしてしまうかもしれません。

要は台風の進路のように中心(目)は目的地を目指して着々と進みながら、常に周辺に一定の余分な広がりがある(暴風圏の広がりのような)状態を作り、起こっている出来事を一定の取捨選択基準のもとに、受け入れていくことでよいのだと思います。そして、向かうべき方向さえ、きちんと意識していれば、あまり大きく進路をそれて迷子になるようなことはないでしょう。

キャリア形成のチャンスやタイミングは予期せぬところに転がっていたりもします。ただ、予期せぬチャンスを引き付けたり、それをチャンスと認識するには、日々自分の進むべき道や望む姿を相当意識することが必要です。

流れ星を見て願いがかなう、とよく言われるのは、流れ星が勝手に魔法をかけてくれるからではなく「たった3秒の間に自分の願いをしっかり唱えられる程、日々強くそのことを意識しているから」です。

皆さんの日々が予期せぬチャンスの連続やワクワクする期待感でいっぱいになるよう、お一人お一人が前向きな余裕と大らかさを持って日常を眺め、日々のキャリア形成を行っていけるよう、お手伝いさせていただきたいと思う今日この頃です。

佐藤 史子 / Fumiko Sato
【経歴】
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。新卒で大手新聞社に入社し、取材記者として勤務。その後大手総合人材サービス会社を経て2008年より現職。人材業界でのキャリアは通算15年以上にわたる。

【担当領域/実績】
コンサルティング業界担当。毎年年間200名以上の候補者の転職やキャリア形成をサポート。外資系戦略コンサルティングファーム、総合系ファーム、会計系財務アドバイザリーファームを中心に業界でのネットワークを広く持ち、現役コンサルタントの方々との日々のコンタクトを通じて業界の生の情報に触れ、コンサルティング業界の最新動向やキャリア形成に関する知見を磨く。これらをソースにした的確な転職アドバイスに強み。大手ファームへの転職支援はもちろん、ポストコンサルの方々のファンドや事業会社のコアポジションへの転職支援実績も多数。