知っておきたい財務デューデリジェンスという仕事

2026-07-23 執筆者:加藤 浩

転職相談を受けていると、「M&Aに関わる仕事がしたいです」というご相談をいただくことがに多くあります。
では、「具体的にはどのような仕事をイメージされていますか?」と伺うと、多くの方が最初に挙げるのがM&Aアドバイザリー(FA)です。
新聞やニュースでも、「〇〇社のM&Aアドバイザーは△△証券」と紹介されることも多く、M&AといえばFAというイメージを持たれている方も少なくありません。

もちろん、FAはM&Aにおいて非常に重要な役割を担っています。
一方で、実際のM&AはFAだけで成立しているわけではありません。
企業価値を算定するバリュエーション、事業性を分析するビジネスデューデリジェンス、税務・法務の専門家、そして今回ご紹介する財務デューデリジェンス(FDD)など、多くの専門家が関わることで初めて一つの案件が成立します。
その中でも、監査法人出身者や会計士の方にぜひ知っていただきたいのが財務デューデリジェンスという仕事です。

私自身、ここ数年でBig4の財務デューデリジェンスのパートナーの方々とお話しする機会が増えましたが、「思っていた仕事と全然違う」というのが率直な感想でした。
監査経験者の方からは、「監査の延長のような仕事ですよね?」という質問を受けることがありますが、半分正解で半分違います。
監査は過去の財務諸表が適正かどうかを確認する仕事ですが、財務デューデリジェンスは「この会社は本当に買う価値があるのか」「いくらで買うべきなのか」を判断するための材料を提供する仕事です。
同じ財務諸表を見ていても視点はまったく異なります。
・一時的な利益なのか、それとも将来も継続する利益なのか。
・このキャッシュフローは本当に将来も維持できるのか。
・運転資本は適正なのか。
・EBITDAは実態を表しているのか。
こうした論点を整理し、「企業価値にどのような影響があるのか」を分析していきます。
つまり、過去を証明する仕事ではなく、未来の投資判断を支援する仕事なのです。

実際の案件では、さらに現場感があります。
Big4のパートナーから伺った話で印象的だったのはPEファンド案件です。
PE案件というと、「投資ファンドだから案件数が多いのかな」くらいのイメージを持たれている方もいらっしゃいますが、実際はもっとスピード感があります。
例えば、「2週間後にデューデリジェンスを始めたいのでチームを組めますか」という依頼が普通に入ってくるそうです。
事業会社案件であれば提案やコンペを経て受注するケースもありますが、PE案件は投資機会を逃さないことが最優先です。
そのため時間をかけている余裕はなく、「このチームなら任せられる」という信頼が非常に重要になります。
一度高品質なアウトプットを出せば、次回も同じパートナーやチームへ直接依頼が入ることも少なくありません。
また、案件中はレポートを書くだけではなく、PEファンドの担当者と日々やり取りを行い、「このリスクは本当にそこまで大きいのか」「EBITDA調整は妥当なのか」「もう少しここを深掘りできないか」といった議論を繰り返します。
数字を分析するだけではなく、その数字をもとに投資判断そのものへ関わっていく仕事なのです。

もちろん、決して楽な仕事ではありません。
案件期間は3~4週間程度が中心で、その間に膨大な資料を読み込み、経営者インタビューを行い、分析し、レポートをまとめていきます。
クライアントから追加分析の依頼が来ることも日常茶飯事です。
Big4のパートナーも「正直忙しいです」と率直に話していました。
ただ、その後に必ず続く言葉があります。

「でも、その分、一気に成長できます。」
この一言が、財務デューデリジェンスという仕事を非常によく表しているように感じます。
また、その経験はその後のキャリアにもつながります。
事業会社の経営企画やM&A部門へ転職する方もいれば、PEファンドへ転職する方もいます。
実際、PE案件を数多く担当していると、クライアントから仕事ぶりを見られ、「うちに来ませんか」と声が掛かるケースも決して珍しい話ではありません。
独立してM&Aアドバイザリー会社を立ち上げる方もいます。

M&Aに携わりたい。
そう考えた時、多くの方はまずFAという仕事を思い浮かべます。
もちろんFAは非常に魅力的な仕事です。
一方で、企業価値を数字から読み解き、投資判断を支える財務デューデリジェンスも、M&Aのど真ん中にいる仕事です。
特に監査法人で培った会計・財務の専門性を生かしながらM&A領域へキャリアを広げたい方にとっては、非常に相性の良い選択肢だと感じています。
転職相談でも、「M&Aをやりたい」というご相談をいただいた際には、FAだけではなく、バリュエーションや財務デューデリジェンスも含めてご紹介することが増えています。
ご自身の強みや志向によって、実は最適なキャリアは変わります。
M&Aに興味がある方は、ぜひ一度、財務デューデリジェンスという仕事についても知っていただければと思います。

加藤 浩 / Hiroshi Kato
【経歴】
上智大学法学部卒。大手メディア企業にてアジアを中心とした海外営業に10年間従事。その後、コンサルティング会社で人事領域をフロントラインで広くカバーする中、数々の優秀な人材と接触。プロフェッショナルのキャリア構築をこの手で支援したいとの強い思いから、2007年にアンテロープへ参画。

【担当領域/実績】
専門はPE投資ファンド、M&Aアドバイザリー、戦略系・総合系・再生系コンサルティングファーム。PEファンド等、パートナー/マネージングディレクタークラスと独自のネットワークがない限り応募をすることすら難しい業界にも豊富なパイプラインを持つ。情報提供はもちろん、コンサルファームのケース面接対策はじめ、キャンディデートを文字通りハンズオンで支援することにより、これまで経営トップから若手人材まで500名以上の方々の転職を成功に導いてきた。