コンサルタントの本質を知るために
現役でコンサルタントとして活躍している人であっても、コンサルティング業界そのものの歴史や、各コンサルティングファームの足跡について明るい人はそれほど多くないと思います。他業種と比べて転職が珍しくなく、また日々の仕事に忙殺されがちなため、詳しい歴史までは手が回らないというのが正直なところではないでしょうか。
しかし、コンサルティングのアイデンティティを確立するという意味では「歴史を知る」ことは非常に重要です。「何のためにコンサルタントは存在するのか?」、「クライアントへ真に提供するべきものとは?」、「そもそもコンサルタントとはいったい何なのか?」といったコンサルの本質を知るためには、コンサルタントの軌跡や、先人たちの情熱に触れることは重要な作業といえるでしょう。
これからコンサルタントを目指す人はもちろん、現役コンサルタントとして悩みを抱えている人も、いま一度自分を見つめ直すために歴史を振り返ってみましょう。
コンサルティングの始まり
「コンサルティングの始まり」については諸説ありますが、フレデリック・テイラー氏を起源とする説が一般的です。というのも、このフレデリック・テイラー氏こそがマネジメントについて本格的に分析し、仮説を立て、検証するという科学的方法を用いて、大きな成果を出した人物であるからです。
テイラー氏は1856年にアメリカのペンシルベニア州・フィラデルフィアで誕生。その後、ハーバード大学に進学するも目の病気を患って中退し、機械工見習いを経て、さまざまな工場で現場のマネジメント改革に携わっていました。彼はいくつもの実践的研究を行っていますが、なかでも有名な「シャベルすくい作業」のエピソードについてご紹介しましょう。
このシャベルすくい作業とは、その名のとおり鉱石や炭などをシャベルですくって積み降ろしを行うものです。テイラー氏はまず複数の作業者で実験をして1回ですくう量を21ポンドにすると1日の仕事量が最大化することを突き止めました。次に作業者や対象物にかかわらず約21ポンドをすくいやすいシャベルを用意して、またすくう動作についても共有を図りました。ほかにも現代では当たり前になっている部署の設置や、適正な人材配置を行うことによって作業の効率化に成功したのです。
その実験が行われたベスレヘム・スチール工場では作業者数を3分の1以下に減らせた上に、1トンあたりの平均コストも半減、1人あたりの平均賃金も1.15ドルから1.88ドルまで大幅にアップさせました。1人のコンサルタントによって雇用者だけではなく、従業員にもメリットがある理想的な状況を生み出したのです。
やがてテイラー氏は複数の工場でその手腕を発揮して、次々と成果を上げていきます。彼が55歳のときに発表した『科学的管理法の原理』は8カ国語で出版され、1914年にニューヨークで行われた講演には1万6000もの人が集まったそうです。これが今から約100年前に起こった出来事です。
コンサルティングファームの誕生
フレデリック・テイラー氏が活躍した19世紀後半、アメリカは大企業の時代を迎えつつありました。「管理職」のポストが登場したのもこのころで、組織を効率的に運営する理論が求められるようになったのです。こうした背景から1881年にはペンシルバニア大学でアメリカ初の経営学部が登場、さらにハーバード大学やシカゴ大学にも経営学部が作られました。
当時は個人で活動しているコンサルタントが大半で、現在のコンサルティングファームのようなものはありませんでした。しかし、大学でMBA育成システムが確立するとコンサルタントが次々に誕生し、やがてコンサルタント同士で共同事務所を開くようになりました。
19世紀後半には世界最古のコンサルティング会社といわれる「アーサー・D・リトル」が登場。マサチューセッツ工科大学のアーサー・D・リトル博士によって設立された会社で、“Side-by-Side”(常にクライアントとともにあれ)というコンセプトを掲げて、技術開発の委託研修などを中心に行っていたようです。
このように黎明期のコンサルティングは業務効率化や業務改革に近いものがほとんどでしたが、次第に経営責任者に助言を行う戦略系コンサルティングファームも姿を現すようになります。20世紀初頭には戦略系の名門「マッキンゼー・アンド・カンパニー」など、現在も続くコンサルティングファームが続々と誕生しました。
日本への浸透
コンサルティングの文化はアメリカで生まれ、欧米を中心に洗練されてきたビジネスです。日本ではもともと経営者がコンサルタントに対して積極的に助言を求めるという風土はありませんでしたが、外資系ファームの日本進出にともなって、徐々にコンサルティングビジネスが浸透していくようになりました。日本企業の海外進出が活発化するにつれて、欧米の事情に明るい外資系ファームの需要が増大し、やがて経営陣のパートナーとして存在感を強めていくこととなります。
外資系ファームが躍進する一方で、日本の国内系ファームも次々と誕生していきました。中小企業を対象にした会社や、独自のビジネスを展開する会社、広告代理店など特定分野に強みを持つ会社など、多様なニーズに合わせて個性豊かなファームが生まれたのです。
外資系ファームが進出してくるまで日本にはコンサルタント文化はありませんでしたが、一方でそれに近い「顧問」や「相談役」といった人物が、第三者的立場から経営に関するアドバイスを行っていました。どちらも「クライアントを成功に導く」という点では同じです。現在のようにコンサルタントという職業が一般的になったのは、自然な流れといえるかもしれません。
専門化するコンサルティング
最近は戦略系コンサルティングや業務系コンサルティングなど、ファームごとの得意分野の垣根があいまいになっている一方で、専門化がより進んでいる分野もあります。この傾向は特に国内系ファームに顕著です。
【組織人事コンサルタント】
戦略を立案したところで社員が実行できなければ思うような改革はできません。そこで企業が描いた戦略や新しい試み、システムがしっかりと機能するように人や組織の開発支援を行うのが組織人事コンサルタントです。主な業務は「人事制度の効率化」、「組織の活性化」、「人材の育成・研修」などが挙げられます。最近は、M&A後の統合フェーズでの活躍も多くなっています。
【IT系コンサルタント】
ITは業務効率化や事業拡大を図りたい企業にとって必要不可欠です。しかし、ITのシステムは複雑であるため、導入しても社員が使いこなせないために効果が現れないといったことがたびたび起こります。そこでITの専門化として課題の解決や支援を行うのがIT系コンサルタントです。ITを切り口に経営戦略を行う「IT戦略」、ERPパッケージのシステム導入を行う「ERP」、顧客満足度の高いシステム導入をする「CRM」など、さらに専門化が進んでいます。
【ブランド系コンサルタント】
企業におけるブランド戦略に携わるコンサルタントです。商品の名前を考えたり、ロゴマークをデザインするだけでなく、ブランドイメージの浸透や、経営計画の策定など、事業領域は幅広いものとなります。日本企業の海外進出に伴って、海外にどうブランド展開させるかという案件が増えており、現在注目されているジャンルのひとつです。
コンサルの本質的な部分は今も昔も同じ
2000年以降、上記以外にもさまざまなコンサルティングが生まれています。企業再生から自立を目指す「事業再生コンサルティング」、インターネットビジネスをサポートする「WEBコンサルティング」、人事や総務などをアウトソーシングする「BPOコンサルティング」など、コンサルタントに求められるスキルは細分化されており、事業も日々拡大しています。
大きく変化している業界であるからこそ、ふとコンサルタントという職業が分からなくなってしまうことがあるかもしれません。しかし、歴史を見ると「クライアントの間違った思い込みを正して、会社の方向性を大きく変える」という点では今も昔も同じことが分かります。自分を見失ってしまったときは、いま一度コンサル業界の歴史を振り返ってみましょう。おのずと進むべき道が見えてくるはずです。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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