M&Aにはいくつものプロセスが存在する
M&Aや企業買収は立案から成立、その後の経営統合に至るまで多くのプロセスを経る必要があります。ここではそのプロセスを段階ごとに説明し、全体的な流れについて理解を進めましょう。M&Aは経営者の思いつきで行われるような簡単なものではありません。自社の経営戦略上、外部企業のノウハウや営業基盤、製造基盤、ヒューマンリソースなどが欠かせない、あるいはそうしたものをM&Aで取得した方が経営戦略をはるかにスピーディーに推進できる、または大きなシナジー効果が期待できる。そういった総合的な経営判断があって初めてM&Aが実行に移されます。
フェイズ1:M&A戦略の策定
M&Aを行うにあたっては「M&Aが経営戦略上、必要不可欠である」という経営判断が必要です。その決定に基づいてM&A戦略が策定されます。具体的にはターゲットとするべき企業の業界や業態・企業規模・企業の所在地などの条件を設定し、同時にM&Aの達成目標(市場シェア・売上規模・収益など)を設定します。また買収金額の上限や資金調達方法、M&Aの方法といった基本方針もここであらかた固めておく必要があります。
フェイズ2:ターゲットの選定
M&A戦略に基づき、具体的にM&A候補の企業を選定します。独自調査、あるいはM&Aアドバイザリーなどに選定を依頼する場合もあります。また金融機関やM&A仲介会社によって案件が持ち込まれたり、取引先の会社から企業買収を打診・依頼されたりといったケースがあります。M&A案件が持ち込まれた場合、その案件にどう対応するかといった経営判断からM&A戦略が策定される場合もあります。
フェイズ3:事前検討(バリュエーション)
買収候補の企業の事業価値を評価します。つまり候補企業の財務分析を行い「買うか買わないか、買うならいくら程度が妥当か」といった値踏みをするわけですが、これをM&A用語ではバリュエーションと呼びます。
バリュエーションの評価指標としてはPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、NPV(正味現在価値)、投資額をどのくらいの期間で回収できるかを示すペイバック法(回収期間法)、企業が創造する価値を示すEVA(経済的付加価値)などが用いられます。
こうした事前検討により、特定の企業を候補として最終的に選びます。なお、事前検討も後述するデューデリジェンスに含まれるという考え方があり、事前検討を「前半のデューデリジェンス」と位置づける場合があります。
フェイズ4:基本合意書(Letter of Intent)の締結
敵対的TOB(株式公開買い付け)によるM&Aなどは別として、候補企業がM&Aに対して「条件次第で応じてもいい」といった好意的な意思表示をした場合には、両者間で基本合意書を取り交わします。基本合意書に法的拘束力を持たせることは一般的ではありませんが、ビジネス上の道義に基づいて一定期間ほかの企業と並行してM&A交渉を行わないといった約束は含まれます。また基本合意書の締結後、デューデリジェンスのために秘密保持契約などが結ばれます。
フェイズ5:デューデリジェンス
対象企業に対する詳細な調査(Due Diligence、デューデリジェンス)を行います。基本合意書に基づき候補企業から社内情報が開示されるため、事前検討の段階よりもさらに精度の高い調査を行うことができます。公認会計士・税理士・弁護士などの専門家がさまざまな角度から調査を行い、対象企業の全体像を把握します。DDの結果抽出された問題点をディール・イシュー(企業買収上の留意事項)といい、もしM&Aを断念しなくてはならないような重大な問題が見つかれば基本合意を解消し、M&A戦略は振出しに戻ります。このような重大な問題のことをディール・ブレーカーといいます。
フェイズ6:買収契約書締結
DDを経てM&Aの実施が決定されると、対象企業と買収企業が最終的な交渉を行い、合意に基づいて法的拘束力を持つ買収契約書が締結されます。買収契約書の締結までには、買収金額や保証条項などを巡って双方のギリギリの攻防が行われるのが常です。順調にいけばDD終了後1か月程度で締結に至る場合もありますが、交渉の内容によっては半年以上かかることも珍しくはありません。
フェイズ7:クロージング
買収契約書の内容に基づき、企業の経営権の移転や対価の受け渡しといった実務作業が進められます。これがクロージングです。契約内容どおりの取引が行われるかどうか、クロージングは双方の監視下で進められます。また、契約からクロージングまでの間に対象企業の業績などに変動があった場合は買収価格が調整されるのが一般的です。こうして対象企業が買収企業の傘下に収まり、新しい体制で営業をスタートする日をDay 1と呼びます。これでM&A取引(ディール)は一応の終了をみます。
ポストディールがM&Aの成否を決める
以上がM&Aの基本的な流れとなります。しかし本当の意味でのM&Aはまだ完了したとはいえません。Day 1以降、新しく傘下に加わった企業と買収企業との実質的な統合が進められます。M&A戦略どおりの目標を達成し、シナジー効果を発揮するためには双方の仕事の進め方や資産・人材の運用、企業文化の融和など、ヒト、モノ、カネをいかにスムーズに統合し有機的に稼働させるかといったポストディール施策、いわゆるポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)が必要です。この段階でも幾多の手順を踏み、慎重に統合を進めていく必要があります。
PMIの良し悪しがM&Aの成否を最終的に決定づけるといっても過言ではありません。PMIを経て両者が完全に一体となり期待以上の成果をあげた時こそ、初めて「M&Aは完了した」といえるでしょう。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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