国内企業が関連したM&A・買収事例と、目的や手法・戦略
ここでは日本の企業が関連した大型M&A案件、海外ファンドによる国内企業の買収などの事例をいくつか紹介しながら、M&Aの目的や手法、M&Aにまつわる戦略などを学んでいきましょう。また敵対的買収とはどのようなものなのかについても、簡単に触れておきます。
日系大企業によるクロスボーダーの大型案件事例
2014年、サントリーホールディングスはバーボンの世界的ブランド「ジムビーム」を展開しているアメリカの蒸留酒最大手・ビーム社を160億ドルで買収(全発行済み株式を取得)しました。これはサントリーが北米蒸留酒市場に進出する足がかりをつくり、アメリカをはじめとする世界の蒸留酒市場で確固たる地位を築くための第一歩であると考えられています。日本を代表するウイスキーメーカーからグローバル企業へと脱皮するためのブランド力獲得を狙った、サントリーの社運をかけたM&Aだったといえるでしょう。ビーム社はビームサントリー社として生まれ変わり、ジムビームブランドを継承してアメリカ第2位のスピリッツ会社として事業を展開しています。
もう1つの代表的事例として、日本郵政株式会社による豪州物流大手・トール社(Toll Holdings Limited)の買収をご紹介します。日本郵政はトール社のM&Aにあたり、豪州会社法に基づくスキーム・オブ・アレンジメント(SOA)の手続きによってトール社の全株式を取得しました。このM&Aにより、日本郵政は国際物流企業としてフェデックスに次ぐ世界第5位に浮上します。日本郵政によれば、企業買収の目的を「国内事業の強化とアジア市場への展開」としています。トール社はアジア太平洋地域に強みを持ち多国籍企業経営の経験も豊富なことから、トール社を起点にグローバル展開をはかる見込みです。
トール社の買収価格は6200億円。これはトール社の株式時価総額を50%近く上回るものです。この点はサントリーによるビーム社買収の時も同様です。被買収企業のブランドやM&Aにより発生するシナジー効果を現在資産価値よりもはるかに高く見積もった買収額といえますが、こうしたM&Aでは成立前よりも成立後の統合プロセス(ポスト・マージャー・インテグレーション、PMIと呼ばれます)の成否が重要となります。サントリーにしても日本郵政にしても、かじ取りの手腕が要求されるのはこれからということになるでしょう。
大手企業が国内ベンチャー企業を買収した事例
次に、大手企業が国内のベンチャー企業を買収した事例を紹介しましょう。
携帯電話キャリアのauブランドで知られるKDDIは、2014年に生活情報メディアサイト「nanapi」を運営するナナピを買収し、子会社化しました。買収金額は非公開です。
ナナピ買収の目的は、KDDIが持つ通信インフラと、のべ4000万人を超える契約者というスケールメリットを生かし、強いメディアを集めて利用者を囲い込むことだといわれています。それを裏付けるように、2014年10月にはnanapiや同じく買収した音楽情報サイトのナタリーなど、複数のサービスを連携させる「Syn.(シンドット)」構想を発表しています。
投資ファンドによる買収・売却
M&Aは事業会社による経営戦略としてだけではなく、ファンドなどにより利ざやを稼ぐための投資手法として行われることがあります。最近の代表的な例としては、ベイン・キャピタルによるすかいらーくや雪国まいたけの買収があげられるでしょう。
ベイン・キャピタルは成長の踊り場にある企業を買収し非上場子会社にしてから、中長期的視点で経営を立て直し企業価値を向上させた上で再上場や売却によって売却益(キャピタルゲイン)を得るという、バイアウトファンドの王道をいく手法をとります。
2011年、ベイン・キャピタルは当時巨額の負債を抱えていたすかいらーくの株式を、野村プリンシパル・ファイナンスから取得しました。その後サービスラインの見直しやマーケティングのテコ入れなどを行い、3年後の2014年には早くもすかいらーくを再上場させます。買収価格が約1600億円であったと考えられるのに対し、再上場時の時価総額は約2300億円。2015年8月現在では時価総額は3400億円にまで増えており、筆頭株主であるベイン・キャピタルは大きな利益をあげたものと思われます。
一方、雪国まいたけのケースでは、オーナー経営者が株式を担保に第四銀行などから借り入れを行っており、業績悪化にともなって株式の担保価値が減少したタイミングでベイン・キャピタルがTOB(株式公開買い付け)を実行。雪国まいたけのコーポレート・ガバナンスに不満を持っていた銀行団がこれに応じて、雪国まいたけの支配権がベイン・キャピタルに移行しました。すかいらーくでの成功体験がここでも再現されるか、バイアウトファンドの腕の見せ所と言っていいでしょう。
敵対的買収の事例
ファンドによる買収は、必ずしも長期的な経営再建による利益を目指すとは限りません。いわゆる「ハゲタカファンド」と呼ばれる投資ファンドが敵対的買収を仕掛けてくるケースもみられます。こうした場面でよく見られる手法が「敵対的TOB」です。
M&Aには友好的買収(買収企業と被買収企業が協力して進めるもの)と、敵対的買収(買収企業が一方的に買収を仕掛けてくるもの)があります。ハゲタカファンドと呼ばれるファンドは対象企業の企業価値を高めることを目的とせず、企業を解体し資産を切り売りして手っ取り早く利益を得ようとします。
例えば、サッポロホールディングスやブルドックソースに対して敵対的TOBを仕掛けたスティール・パートナーズはそうした手法を得意とするファンドです。
スティール・パートナーズは2008年までにかつら・増毛で知られるアデランスホールディングス(その後ユニヘアー→アデランスへと社名変更)の株式を大量取得。一時は発行済み株式の27.7%を保有する筆頭株主になり、経営陣に多くの取締役を送り込んで実質的な経営権を握っていました。しかし、アデランスの業績はその後低迷を続け、スティール・パートナーズは結果的に保有株の大半を売却したといわれています。この例もそうですが、日本では敵対的買収はなかなか成功しない、というのが通説となっています。
数・規模ともに増大する日本企業のM&A
ここで紹介した以外にも、例えばソフトバンクによるアメリカの携帯電話会社スプリントの買収(約1兆8000億円)、武田薬品工業によるスイスの製薬会社ナイコメッドの買収(約1兆1000億円)、第一生命によるアメリカの中堅生保会社プロテクティブの買収(約5750億円)など、国内企業による大型M&Aは珍しいものではなくなっています。
M&Aを手がけるコンサルティング会社や金融機関などでは、採用面接に際して近年の著名なディールが話題にのぼることも少なくありません。過去10年程度の主要なディールについてはその概要を把握しておき、M&Aの内容がどのようなものだったのか、成功したか失敗したか、その原因はどのようなものと思われるか、といった自分なりの分析や見解を述べられるようにしておくことをお勧めします。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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