VCのバリューチェーンとキャピタリストに求められる役割(1)

2023-06-06 執筆者:太田 幸彦

今回が初めてのコラムになります、コンサルタントの太田です。

私はベンチャーキャピタルや、その投資先の経営人材のキャリパスを支援しています。理由は、米国中心に様々なイノベーションが起きている中、日本企業が衰退の一途をたどっている現状に課題を感じているからです。そしてVC業界の担っている「日本の閉塞感を打開し、日本から新たな産業を作り出す」というビジョンに伴走し、人材支援を通して貢献していきたいと考えています。

そこでこの場をお借りして、実際に活躍中のキャピタリストの方々とお話する中で教えていただいた内容をもとに「日本におけるベンチャーキャピタリストの役割、またその投資先経営人材の必要性」について述べていきたいと思います。なお、1回のコラムですべてを書くと長くなってしまうため、VCの業務をバリューチェーンごとに分けて、シリーズ化して連載していく予定です。

最初に、VCのバリューチェーンを体系的に整理すると以下のようになります。

1)ファンド募集
2)ファンド組成
3)ソーシング
4)DD、Valuation
5)投資実行
6)経営支援、育成
7)EXIT(IPO/M&A)
8)投資家への分配

この中でも人材を支援する立場である私からみて特に重要で、かつVCのキャピタリストや経営人材の個性・経験をもっとも発揮いただけるプロセスは、以下の4つではないかと感じています。

3)ソーシング
4)DD、Valuation
6)経営支援
7)EXIT(IPO/M&A)

まずはこの4つに絞って、キャピタリストに求められている役割を簡単にまとめたいと思います。

まずは3)ソーシングです。ソーシングでの最初のステップではキャピタリスト自身と、所属するVCのアイデンティティともなる「投資方針」の策定が重要となります。

キャピタリストとして自分が提供できる価値を確認し、投資すべきスタートアップ企業を選定していきますが、これは投資テーマや投資先のシリーズごとにアプローチが変わります。

皆さんは「ハイプ・サイクル」をご存知でしょうか? 世界的なIT分野の調査・助言会社であるGartner社がまとめている、横軸に「時間」縦軸に「期待度」をおいてスタートアップのライフステージを整理した図です。以下のURLから同社のプレスリリースを参照いただけます。

https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20220816

これを見ると、ほとんどすべてのスタートアップは

A)黎明期
B)「過度な期待」のピーク期
C)幻滅期
D)啓発期
E)生産性の安定期

という「ハイプ・サイクル」をたどっているように見えます。

ここでキャピタリストに必要になるのは、自身の投資したいテーマ、スタートアップが「ハイプ・サイクル」のどこのフェーズにあるのかをとらまえ、アプローチを考えるセンスです。

例えば、今話題の「ChatGPT」はまさにB)にあたる期待のピークであり、テーマとしての「Web3」はそのピークが落ち着いた幻滅期にあたります。「このイノベーションはすごいかもしれない、この技術を使えばこんなこと、あんなことがビジネスとなり社会がこう変わっていくはず」という仮説を立てていくのが、黎明期~期待のピーク期で、「実際にはビジネス化できていないし、思ったより社会に実装されていないな。実際は何が課題だったのか答え合わせしてみよう」と仮説を検証していくのが幻滅期です。そこから検証で得られた様々な課題をクリアして、マーケットを再構築していくフェーズが啓蒙期となります。

シードへの投資では
・シードととなる論文へのアプローチ
・タイムマシーンアプローチ(米国、海外でのサービスの日本展開)
・既存投資先にはない業種の企業へのアプローチ

シリーズB以降では
・先程のパイプサイクルの啓蒙期におけるマーケットニーズが顕在化された市場、スタートアップへのアプローチ
・ディープテックなどプロダクトが完成するまでに資金を要するスタートアップへのアプローチ

と、投資テーマ、既存のポートフォリオとのバランス、自身の強みとなる領域へのアプローチが必要になります。ここで自身の強み、すなわち「XXの領域なら〇〇さんへ頼めば、いいアドバイスをくれる」とか「投資委員会をパスしてくれるのでは」という期待・信頼を得ていくことが、キャピタリストとしての成功のポイントになるようです。

そしてそのキャピタリストとしての強み・アイデンティティが次のステップ4)DD、Valuation につながっていきます。

===================

今回はVCのバリューチェーンの最初のステップとなる、ソーシングについて記載させていただきました。次のコラムではDD・Valuation以降のプロセスについて進めていきたいと思います。VCにおけるDDとはどういうものなのか、実績のあるキャピタリストはどこを見ているのか? 市場は? 経営者は? どんなバリューアップを見据えているのか? について記載を予定しています。

お忙しい中、目を通してくださりありがとうございました。少しでもVC・投資先の経営人材を目指される皆様、日本の閉塞感を打開し、新たな日本の産業を創り出していかれる皆様の参考になれば幸いです。

太田 幸彦 / Yukihiko Ohta
【経歴】
慶應義塾大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。市場部門にて、外国為替カスタマーディーラーとして大手事業会社や総合商社、金融法人を担当。その後、外資系金融機関、エグゼクティブサーチファームと「金融×人材」の軸でマネージメントまで幅広く業務を経験。個人の中長期的でチャレンジングなキャリア形成を支援するため、アンテロープキャリアコンサルティングに転向。

【担当領域/実績】
国内外の証券会社(プライマリー・セカンダリー)、AM、銀行、FAS、PEファンド・VCとその投資先のCxOなどを担当。金融機関・キャリアコンサルタントとしての経験を活かしたキャリア支援やアドバイスに強みを持つ。「ポジションが必要とされている背景」「中長期的な視点で良い機会かどうか」という視点を大切にしたサポートを心掛けている。