IPOに向けての準備における主要プロセスや流れ
2007年頃から数年間、日本企業のIPO(新規上場)件数は減少傾向にありました。しかし、2009年にリーマンショックのダメージを受けて底を打った後は、年々件数が増加してきています。2014年には77社がIPOを果たし、10年ぶりに70社を超えてリーマンショック以前の高水準に戻しました。
企業がIPOを果たすためには上場に関する経験や専門知識を持つ人材を社内に必要とし、また外部からも監査法人や会計士事務所、主幹事となる証券会社の協力を仰ぐ必要があります。このため、IPO機運の上昇にともない、IPOを控えた事業会社やIPOを支援する企業などからの求人も増加する可能性があります。
そこで、自分の持つスキルがIPOのどのフェイズで最大に発揮できるのかをチェックするための参考資料として、IPOに向けての準備の主要なプロセスや流れについて説明していきたいと思います。
フェイズ1 事業計画の策定~外部監査人の選定まで
IPOは一般に、申請の3期前から本格的な準備をスタートさせます。フェイズ1では3期前にやっておくべき主要な項目をピックアップしてみましょう。
- 1-1 IPOコンサルタントの選定
- 社内によほど経験豊富な専門家がいない限り、IPOに際しては外部コンサルティング会社の支援を仰ぐのが一般的です。経営陣がコンサルタントと話し合い「本当にIPOを実施するかどうか」の決断をします。またこの際にIPO準備担当者の選任も行います。
- 1-2 事業計画の策定
- 単年度、中期・長期計画で企業の成長予測を数値化し、上場企業として株主や社会への責任が果たせるよう事業計画を策定します。また、後に証券取引所に提出する有価証券報告書などの作成に必要な資料を収集、整理します。
- 1-3 株券の回収
- 株券を発行している場合、上場に向けて発行済みの株券を回収します。
- 1-4 資本政策の策定
- IPOによる市場からの資金調達を前提に、経営権を防衛するための資本政策を策定しておきます。
- 1-5 内部統制
- 監査法人からもっとも多く指摘を受けるのが内部統制に関する部分です。上場企業を目指すにあたり、組織のガバナンスを確保できる体制を構築していく必要があります。また服務規程も並行して上場企業にふさわしいものに改善していきます。
- 1-6 内部監査室の設立
- 内部監査人による内部監査をスタートします。
- 1-7 ショートレビュー(予備調査)~外部監査人の選定
- 監査法人などを外部監査人として選任するに先立ち、監査法人は予備調査を行います。この結果、特に大きな問題がなければ外部監査人を引き受け、監査契約を締結します。またこの際に会計方針を会計基準に準拠するよう変更します。
フェイズ2 上場企業としての体制作り
フェイズ2では、一般的にIPO申請の2期前(直前々期)にやっておくべき事柄を説明します。この時期はIPOコンサルタントや監査法人などと連携し、指導を受けながら二人三脚で上場企業としての体制を整えていく段階です。
- 2-1 外部監査
- ショートレビューの結果をもとに監査契約を結んだ監査法人が監査を行います。ショートレビューで問題を指摘された事項を改善し、確認してもらいます。
- 2-2 実査
- 外部監査人が有価証券の現物や残高証明書を実際に確かめます。
- 2-3 月次決算
- 上場企業には適時開示のための月次決算の義務があるので、迅速な月次決算を行える体制を整えます。
- 2-4 主幹事証券会社の決定
- 株式公開の準備指導、証券取引所への申請書類の作成指導、証券取引所との折衝などを行ってくれる主幹事証券会社を決定します。
- 2-5 株主総会
- 株式を公開すると、不特定多数の外部株主が株主総会に出席するようになります。このため株主総会も形式的なものでなく、より実践的で適正なものとして体裁を整えていく必要があります。
フェイズ3 IPO申請に向けて
フェイズ3は一般的にはIPO申請の直前期にやっておくべき事柄です。上場企業となるためにより実務的な準備を多く必要とします。
- 3-1 株主名簿管理人の選定
- 株主名簿の作成や管理を代行してくれる、信託銀行などの株式事務代行機関を選定します。またこれにともない定款の変更・登記が必要になります。
- 3-2 株主総会
- 株主名簿管理人は上記の代行業務のほか、株主総会の運営に関する支援も行ってくれます。株主名簿管理人の助言を得て上場後と同様の株主総会が行えるよう準備を進めます。
- 3-3 IPO市場の選定
- 主幹事証券会社などと協議の上、株式上場する市場を決定します。
- 3-4 引受審査
- 主幹事証券会社はほかの証券会社とともに新規上場会社の公募・売り出しの株式を引き受けます。株式の引き受けに値する会社かどうか、主幹事会社が最終的な判断をするために審査を行います。
- 3-5 証券印刷会社の選定
- 証券取引所が指定する証券印刷会社の中から株券の印刷を依頼する印刷会社を選定します。
- 3-6 上場申請書類の作成
- 証券取引所に提出する上場申請書類の作成を、主幹事会社などの指導のもとに行います。申請書類は証券取引所によって「上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」「上場申請のための有価証券報告書(IIの部)」などの違いがあります。
- 3-7 上場審査への最終準備
- 証券取引所が「上場のための形式要件を満たしているか、実質基準を満たしているか」を確認する審査が上場審査です。事業計画や資本政策などの見直しを行い、万全を期して審査に臨みます。
多様化するスキーム 十分な準備期間を
近年のIPOでは、上場準備期間の短縮、規模の小さい会社の上場などの傾向がみられます。また黄金株(重要事項の議決を拒否できる権限を付与した株式)を発行したまま上場したり、IFRS適用会社が上場したりとIPOのスキームも多様化してきています。
ここではスキーム1~3を、申請前の3期~直前期まで1年刻みのスパンでまとめてあります。上場準備期間を短縮するためにはそれぞれのフェイズを短期間でクリアする必要があり、外部企業への依存度はさらに高まるでしょう。しかし、IPOの準備を急ぎすぎると組織運営に支障をきたす可能性が高くなります。特別な事情がない限り上場準備期間は従来どおり3年をメドに、短縮しても2年以上を見込むのが望ましいものと考えられます。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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