米国における不動産テック業界の動き

2019-10-07 text by 渡邉 一也

世界の不動産市場は2京4000兆円規模にも及ぶ(そのうち日本市場は約2562兆円)と言われる巨大市場ですが、ことデジタル化浸透度となると、金融、自動車、コンピュータ、電子機器といった市場と比較してまだまだ遅れております。このように巨大でかつ利益率が高く、いまだ紙ベースのやり取りが中心といった非効率な市場こそ、テック企業の参入余地が大きいとも言われております。現実に世界の不動産テック企業への投資額は毎年1.8倍のペースで増加し、2018年には5000億円を超える資金が投資されています(サウジアラビア政府系ファンドと共同投資を行うソフトバンクビジョンファンド等が日本でも注目を浴びました)。

それを国別に見てみると、その半数以上を米国企業が占めているのが現状であり、すなわち米国の動向を知ることが日本の将来の見立てにつながると言っても過言ではないと思います。そこで今回は、米国での不動産テック業界の動きについて知っておきたいと思います。

そもそも最近頻繁に耳にするようになった不動産テックとは、どのようなものを指すのでしょうか。一言で表しますと、賃貸や売買といった取引や資産管理といった業務、市場調査や鑑定業務といった各フェーズにおいて先端テクノロジーを活用し、新たな付加価値を生み出すことを指して不動産テックと言うのが一般的です(米国ではProptechという呼び方が一般的です)。不動産業務といっても住宅やオフィスといった多岐にわたるアセットタイプや開発、分譲、賃貸、売買といった業務別に見ても、その業務は非常に幅が広いです。そのため、今回のレポートでは特に不動産ポータルサイトに見える業界の動きに注目をしてみたいと思います。

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)という言葉はすっかり耳に馴染みましたが、皆様はZORC(ゾーク)という言葉をご存知でしょうか? 米国でアメリカの不動産テックの巨大企業4社「Zillow」「Opendoor」「Redfin」「Compass」の頭文字であり、最近よく使われ始めています。

Zillow:全土にわたる売出し中物件以外のデータを含め、1億件もの物件情報を有する不動産ポータルサイトの覇者とも言える巨大企業

Opendoor:iBuyer(価格査定アルゴリズム×買取再販業)の先駆者として巨大市場を創出する

Redfin:ポータル×ディスカウント仲介会社というユニークなモデルでZillowを猛追する

Compass:豊富な資金とテクノロジーを武器に大都市圏のトップエージェントを続々と引き抜きで採用し、大手不動産会社の敏腕エージェントが在籍する

このZORCと呼ばれる不動産ポータルサイト企業の顕著な動きとして、1)買い手側から売り手側へと飛び火した競争の過熱化、2)仲介会社の集客強化の動き、3)不動産に関する周辺領域での収益化の狙い、といった3つの潮流についても簡単に触れておきます。

1)買い手側から売り手側へも飛び火した勢力競争

2000年以降、Zillow、trulia、realtor.comといった企業の登場により『不動産の買い手側』の検索・検討するといった不動産取引フェーズでのオンライン化がまず進みました。その後、Redfin、MOVOTOといった検索・検討から内見・購入申し込み・価格交渉・契約までをカバーする企業が登場しました。これらはポータルサイトと仲介会社の両方を兼ねるユニークなビジネスモデルで、ポータルサイト経由の反響を自社のエージェントが成約することでマネタイズを図るというモデルを確立しています。低賃金の若手エージェントを採用し、内見、申込み、交渉、契約と言った各フェーズにそれぞれ専属担当者をつけ、ベルトコンベアのように業務を効率化させることで手数料のディスカウントを実現するという独自モデルでZillowを猛追しています。
さらにその後、Compass、eXp、REXといった仲介業務にテクノロジーを活用した次世代型の仲介会社が台頭してきました。これらの企業は顧客を多数抱えるトップエージェントを数億円という高額のFeeで採用し、取引総額の最大化を可能にしたものの、その反面エージェントへのマージン課金が低いため、黒字化までの道筋が不明と言う問題点も抱えています。
一方で売り手側企業の流れとしては、Opendoor、Offerpad、knockといった価格査定アルゴリズムを活用した買取再販業者が登場しております。これらの業者の特徴としては価格査定アルゴリズムを活用し、オンライン査定から最短10日間で物件を売却できるモデルを実現したことにあります。特に買い替えや個人事情で現金化を急ぐ人をターゲットに、成約件数を伸ばしております。

2)仲介会社の集客強化の動き

最近ではAmazonが米国最大手の仲介会社Realogyと提携し、「TurnKey」という不動産事業を展開することを発表して大きな話題になりました。これは不動産仲介とスマートホームという巨大な収益源にアクセスしたいAmazonの狙いと米国最大の仲介会社でありながら近年新興勢力に押されっぱなしで時価総額が低下してきたRealogyの不動産テック企業への対抗という両社の思惑が一致した動きであり、こういった不動産以外の業界と手を組むことによる集客モデルの変革に拍車がかかる大きな動きとなることは間違いありません。

3)不動産に関する周辺領域での収益化

上記に述べたような競争の激しい仲介領域単体での黒字化は困難を極めているのが現状です。現にZORCは4社とも巨額の赤字を抱えていると言われております。そこで各社は周辺領域(ローン、保険、決済、登記)でのマネタイズを狙う動きとなりました。特にZORCが住宅ローンに参入したことが話題になりましたが、今後は逆の動きとしてRocketHomesのような住宅ローン会社が不動産仲介ビジネスに進出することが予想され、ますます競争は激しくなると言われております。

少しだけ日本の不動産テックについても触れておきますと、米国のような不動産ポータルサイトはソニー不動産やヤフー不動産の取り組みがそれにあたると言え、今後の躍進に期待がかかります。また、ウィーワークを始めとするシェアオフィスやロードスターキャピタルが先陣を切った買付型クラウドファンディングが思い当たります。今後ますます新しいプレーヤーが参画してくることが予想されるため、日々その動きには注目していきたいと考えております。

最後に…不動産テック業界において今後求められる人材について、人材紹介エージェントの意見として言いますと、やはり不動産業務を熟知した人材と言えると思います。その理由として、B2Bの不動産業務の商習慣については独特な世界があり、IT出身の不動産テック人材ではなかなか理解できない場面が多々あると言えるからです。不動産業務を熟知しIT人材と橋渡しできる人材が、現在も今後も重宝されるのではないでしょうか。今後も不動産業界とIT業界の両面から人材紹介を通じて不動産テックの流れに注目をしていきたいと思います。

現在、不動産業界またはIT業界に身を置かれている方で、不動産テックにご興味のある方はぜひ一度ご相談にいらしていただきたいと思っております。

渡邉 一也 / Kazuya Watanabe
【経歴】
成蹊大学法学部卒。地域金融機関にて法人や個人顧客を担当。与信業務・受信業務を通じて10年にわたり地域の発展に寄与。その後、大手邦銀にて10年間、住宅ローンコンサルタントとして個人顧客ならびに業者向けセールスを行う。20年以上に渡り顧客に金融商品を提供しながら信頼関係の構築に注力してきた経験を、人財というもっとも重要なリソースをクライアントに提供することに注ぐべくアンテロープに参加。

【担当領域/実績】
銀行の金融市場部門、資産運用会社(アセットマネジメント)、不動産金融、ベンチャーキャピタル、フィンテックを中心に担当。金融業界でのキャリアをベースとしたネットワークで、幅広い年齢層の転職をサポートしている。