段差のあるキャリア

2011-08-31 執筆者:小倉 基弘

自分自身のキャリアを振返った時、90年9月から97年7月までの7年間は今から考えると特異な経験をしたように思います。
90年8月にそれまで勤めていた日興證券(現SMBC日興証券)を退社し、初めて起業したビジネスが建築資材の販売というものでした。
東邦トレーディング株式会社というのが当時の会社名で、現在のアンテロープキャリアコンサルティングはこの東邦トレーディングを存続会社として社名、定款を変更したものです。
この業界は大手ゼネコンを頂点として下請け、孫受けと呼ばれる施工会社、資材メーカーが数多く存在しており、私が行っていたのは耐火被覆材の下地になる資材を大手ゼネコンに販売するということでした。その為、お付合いする相手はお客様の大手ゼネコンの方々、仕入先のメーカーで働いている方々、そしてその資材を現場で取付け施工してくれる職人さん達です。
職人さんの経歴は様々で国立大学出身者もいれば中学卒で家を飛び出してきてしまった方もいましたし、また特に職人を束ねている親方については個性的な人が多く、若い時に起伏に富んだ人生経験を持っている人など確かに見た目は多少いかつく怖い面もありましたがこちらが誠実に接すれば誠実に対応してくれ、安心して仕事を任すことができたのを覚えています。

翻ってキャリアデザインをサポートする仕事を現在日々行っていて、一貫したキャリアの持つ重要性、強みは重々承知しています。私自身もどのような分野であっても若いうちに自分の方向性を決めそれに永い期間打ち込むことでプロフェッショナルとして成功するものと信じていますし、そのようにアドバイスもしています。

ただ、あの頃を思い出すとあの段差のある経験というか特異な経験も大事だったなと感じます。

今の仕事は日々、投資銀行、投資ファンド、戦略系コンサルティングファーム等に勤務されている方々とお付合いをさせていただいていますが、その当時は上記のような施工現場の職人の方々との付合いが多く、これらの経験が自分の視野を広くしキャリアについてアドバイスをさせていただくうえでも役に立っていると感じています。

全く違う業界、全く違う経歴の人達、いろいろな境遇、背景を持った人達と付き合うことによっていろいろな価値観、考え方に触れることができ、また違う業界でも成果を上げる資質は共通である(謙虚である、誠実である、時間を守る、約束を守る、良好な人間関係を構築できる等)ことが実体験として理解できたのです。

人生は一度しかなく働く時間も40年程度しかないことを考えれば何か一つの事を徹底的に追求しプロフェッショナルになってゆくことが望ましいことかもしれませんが、全く違う業界の経験ができるのも幸せなことかもしれません。
少なくとも私にとってあの7年間で得た経験、自信はとても大切なものです。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。