人生を学習する

2013-07-01 執筆者:小倉 基弘

大仰なテーマを書きましたが、日常、私たちは人生を体験しながら「生きていく為の力」を得る学習をしているのだと思います。現代の日本では社会人になり親の庇護を離れ、企業の中で正解のない問題を日々解決していかなければならない環境、学生時代までのように既定のレールを歩むのではなく、レールを自分自身で作っていかなければならないという環境に放り出された時から本当の学習が始まっているのではないかと思います。

先日、「仕事漂流」という本を読みましたがこれは1979年生まれのある一定の学歴を持たれた8名の方々が社会人になってからどのようなキャリアを歩んだかをドキュメンタリーとして描いているものでした。時期は2010年前後の為、それぞれの方が31歳位でしょうか、丁度、私たちが対応をさせていただいているキャンディデイトのバックグラウンドにも近く興味を持って読みました。それぞれが親の庇護を離れる大学卒業という時期から社会に出て最初の失敗、苦い経験、小さな成功をしていくまでの話です。

一人目:名古屋大学卒→都市銀行→起業→証券代行(もしくは証券印刷)会社
二人目:早稲田大学卒→(出版社を受けるも就職浪人2年)→洋菓子メーカー(店頭販売)→食品メーカー(総務)
三人目:横浜国立大学卒→IT通信系企業(営業)→大手人材紹介会社
四人目:国際基督教大学卒→北陸先端科学技術大学院卒→大手電機メーカー(研究所)→大手電機メーカー
五人目:大学卒→中堅広告代理店→大手広告代理店(契約社員)
六人目:小樽商科大学卒→大手総合商社→ITベンチャー
七人目:東京大学卒→経済産業省→IT企業(監査役)→NPO法人立上→老舗タイルメーカー(役員)
八人目:慶應義塾大学卒→ITコンサルティング会社→大手会計系コンサルティング会社→海外留学

社会に出て理不尽に怒られたり、大小いろいろな失敗の「免疫」の無い若者にとって生々しい現実を経験して、その反応が後々のキャリアデザインに影響を及ぼすのではないかと予感させます。小さな現実ではあるかもしれませんが、以下のような記述がありました。
・顧客に怒られて暗い気持ちで会社に戻ると何も事情を把握していない上司から「数字をあげてない人間は帰って来なくていい」と言われる。
・売上があがらず売れ残ったホールケーキを自分で購入しアパートに持ち帰って冷蔵庫に入れる時に悲しい気持ちになった。
等。社会に出て30年近く経ってしまった私にとっては「まぁ普通にあることだよね」位の感じがしますが、社会人1,2年目位でこういった体験をすると、ずっしりと心に重石を乗せられたような気持になるのでしょう。それによって失敗の気持ちを引きずってしまう人、トラウマになって会社を辞めてしまう人、反対にそういった経験をプラスに活かす人、成功体験によって自信を持ち次のステップをきる人、様々なキャリアがあります。

これも先般出版されたDeNAの創業者、南場智子さんの書かれた「不格好経営」で自身のキャリアデザインに関わる興味深い記述がありました。
南場さんが20代後半、上記の方々と年齢的に近い時期に、ハーバードMBA留学から帰ってきて最初のプロジェクトがうまくいかず「結局私はこの職業に向かないのだ」と感じ転職活動を行い、実際、転職先を見つけた後に当時のパートナーから「次のプロジェクトをやってから辞めろ」と言われる。その結果、プロジェクトは成功しもう少しマッキンゼーに留まろう、と考え直した行(くだり)です。
「辞めようとしていたあのときに声をかけていただいたことで、私は人生の拾いものをした。ひとつの職業で曲がりなりにも通用する人材になれたことが一定の自信となり、その後の進路で頑張り抜く力を与えてくれた気がする。あのときあのまま辞めていたら、もしかしたらどこへ行っても「ここでもダメなんじゃないか」とすぐに諦めてしまい、次から次へと転職を繰り返すジョブホッパーになっていたかもしれない」

大切なのは与えられた環境(といっても自分で選んでいるはずですが)で成功体験を積むこと。たとえ失敗してしまっても逃げ道を探さず、あきらめずに小さくても何かしらで成功するまでやり続けること。これによって得た自信を次の機会で活かしていくことがキャリアデザインの王道なのかな、と考えています。上記の8名の方々も長い職業人生から考えればまだ始まったばかりのタイミングです。これから地道にしつこく成功体験を積んでいくことで素晴らしいキャリアができていく可能性があるのです。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。