プロフェッショナルファームから事業会社への転職

2014-02-26 執筆者:小倉 基弘

リーマンショック以降の2009年から2012年まで、特に金融業界は不況期に入っており求人数は大変少ない状況が続いていました。

当時、私たちは2008年までの転職パターン、すなわち金融から金融(M&AアドバイザリーからPEファンド等)、コンサルティングファームからコンサルティングファーム、金融からコンサルティングファーム、そしてその逆、この4つのパターンの中でおおよそビジネスを完結していました。しかし、2009年以降は金融(特に投資銀行部門)やコンサルファームから事業会社の企画部門(経営企画、マーケティング、M&A部門等)へ転職を希望する方々が徐々に増えてきており、弊社としてもその流れに対応しています。

このトレンドは、金融業界の求人数減少という状況に加え、投資銀行部門、投資ファンド、コンサル等のいわゆるプロフェッショナルファームで鍛えてきた人材に、専門スキルを事業会社で活かしたい、プリンシパルで投資に関わりたい、マネジメントへキャリアの道筋をつけたい、といった新しいキャリアパスが見えてきたこと、一方で事業会社側もこうした人材を即戦力として積極的に採用するようになったこと、双方向のニーズが出てきたことによって形成されています。

こういった背景の中、弊社もここ数年、プロフェッショナルファームから事業会社への転職をお手伝いするようになっていますが、そのプロセスの中で幾つかの問題点、障害も見えてきています。

まずは「その事業会社の製品、サービスに強い愛着を持てるか。また経営理念に共感できるか」という点です。

事業会社のポジションがプロフェッショナルファームで得たスキルを活かす場であっても、その組織が提供している製品、サービス自体に対して興味や愛着が持てなければ、短期間ならまだしも、長期に企業にコミットしてパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。

ある戦略系コンサルティングファームから急成長中の事業会社へ転職された方が、入社後1年程経ってご相談にいらしたことがあります。「どうしても自社が提供しているサービスに興味を持つことができない。関連する雑誌を読んだり、フォーラムに参加したりしたが、このサービスが世の中でどう役立っているのかわからない」と吐露されていました。結局、その方は再度転職されています。

2番目は「職務目的が大きく異なることへ適合できるかどうか」です。

ファームにいた時は戦略立案やM&Aアドバイザリーが90~100%であった職務が、これからはそれらの「実行作業」にそっくり入れ替わる、それを理解して転換できるかどうか、ということです。アドバイザーか当事者かによって、職務の内容には天と地ほども差があります。このことを認識しないで転職をするのはとてもリスクがあるのです。

そして最後に「年収が半減する可能性を、本当に受け入れられるのか」ということです。

徹底的にアウトプットが求められるプロフェッショナルファームは、通常の事業会社に比べて相当ハードワークであり、35歳前後で普通はマネージャー(金融ではバイスプレジデント)というタイトルになります。これは事業会社では課長クラス。年収は戦略ファームで1800万円前後、投資銀行では幅がありますが1500万円~3000万円程度になります。

アナリスト、アソシエイトレベルでの転職であれば、まだ年収が落ちると言っても許容範囲かもしれませんが、マネージャー、バイスプレジデントレベル以上での転職は、事業会社でマネジメントポジションが提示されない限りは相当の年収ダウンになります。

今後、事業会社への転職をお考えになっているプロフェッショナルファームの方々は、ぜひ上記の3つのポイントを踏まえて魅力的な機会を掴んでいただきたいと思います。その企業の製品やサービスについて興味を持ち、経営理念に共感でき、アドバイザーではなく執行者として実力をつけ、長期的なスパンで成果を出していきたいと強く思っているのであれば、その転職はこの上なく良い選択となるでしょう。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。