精神のない専門人

2008-12-06 執筆者:小倉 基弘

先日の日経新聞夕刊コラムに、長部日出雄氏がマックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」に記述されている資本主義の最終段階に登場する人間、「精神のない専門人、心情のない享楽人」についてコメントされていました。

私たちは日々、転職を希望されている方々に対しサービスを提供していますが、その方々の中に、時折、残念ながらこの「精神のない専門人」と思われる方がいらっしゃいます。

転職の動機は様々で、自己実現、やりがい、スキルの向上等が動機付けになっている方もいれば、あまり前向きではありませんが、現状の職場に対する不満が動機になっている方もいます。

この「精神のない専門人」はどちらかというと後者に属し、経歴もよく、能力も高いのですが金銭(収入)の多寡のみが仕事をしていくうえでの動機になっているのです。

確かに資本主義の世界では民間企業、またそこで働くビジネスパーソンは利益(パフォーマンス)をあげなければ存続していくことができないし、生きていくことができません。利益は確かに、存続していくための条件なのですが、その利益(パフォーマンス)のみを目的、最大の動機にしてしまった場合、どのような結果になるのでしょうか。

人間の欲求には良い意味でも悪い意味でも際限がなく、それが金銭に向かう場合、特にその傾向が強く、残念ながらこれが目的化してしまうと最終的には良い結果を生まないのではないでしょうか。

仕事の内容、職務の意味、それが社会に意味のある貢献をしている仕事なのかどうかよりも、いくら稼げるかが大事なようです。

昨今のサブプライム問題も当初は低所得者に対するローンを幅広く提供するスキームのひとつとして社会の必要から生まれた仕組みだったのかもしれませんが、その後、その組成と販売がただ単に利益をあげる目的と化した時から堕落が始まったのかもしれません。

また、金融業界では人気職種のM&A業務も、本質は企業の成長戦略のサポート業務なのですが、このアドバイザリーをしている人の中に大きな手数料を得るために、M&A後の企業の成長を考えることよりM&Aの取引金額だけを考えている人がいたらどうなるのでしょうか。

利益は存続していくための必要条件であっても、目的ではない。これは企業にも個人にもあてはまることなのかもしれません。

本当に大事なのは今行っている仕事がどのように社会に意味ある貢献しているのかということではないでしょうか。

そしてその貢献の結果として利益がもたらされている、ということなのです。

私たちは「精神のある専門人、魂のある専門人」をサポートしていきたいと考えています。

何よりも私たちが「魂のある専門人」になりたいと願っています。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。