ワークライフバランス

2013-11-21 執筆者:小倉 基弘

世の中の流れであるし、社会が発達してくる過程では当たり前の事なのかもしれませんが、日々、転職希望者の話を聞いていると、彼らの職場に求める条件の一つに「ワークライフバランス」(WLB)というキーワードがよく出てくるようになりました。

現代の日本は物質的に非常に恵まれた環境にあり、人々の価値観も多様化しています。その結果として、仕事とプライベートをバランスさせて人生を充実させていこうという考え方が主流を占めるようになってきています。もちろん、出産、育児、介護等によりバランスを取らざるを得ない環境であれば、このWLBという考え方は重要です。ただ、WLBという概念により仕事そのものに対する価値観が低くなってしまったり、仕事に心底打ち込むことによって得られる自己成長、ひいては組織、社会の発展が阻害されているのであれば問題なのではないかと最近考えています。

失われた20年と言われて久しく、もしかしたらそれが30年、40年となってしまうような低成長が続いていますが、何よりもその原因は人口減、景気サイクルによるものではなく日本人が働かなくなったからではないでしょうか。

OECDに発表によると1980年代は2100時間/年間だった労働時間は1730時間/年間になっています。もちろんコンピューター、ネットワークの発達により業務効率が圧倒的に高くなった結果であるかもしれませんが、ここ数年、例えば、中国、韓国から日本へ来て働いている若い世代の方々の転職サポートを行って感じることは、彼らの考えにはWLBというものはなく、徹底的に学習して、働いて自分を成長させる、という気持ちが日本人の同世代に比べてもとても高い、ということです。おそらく日本も戦後から80年代まではもしかしたらそうだったのかもしれません。日本が国として経済成長を望まないのであればこのままでも良いのでしょう。

国としても、組織としても、個人としても本当に秀でた成果、成功を得ようと思ったらバランスは取れないのではないでしょうか。少なくとも組織のリーダーがワークライフバランスを取っていたらその組織はどうなるのでしょうか。リーダーでなくともビジネスパーソンとして一流を目指すのであれば長時間没頭して働くことによって自分を磨いていくことにやりがいを感じないようではどうなるのでしょうか。価値観は多様であるべきですが、仕事に対する情熱が失われているのであればそれは問題であると思います。

正解のない議論かもしれません。ただ、NHKの「プロフェッショナル」に出てくるような半端のない情熱を傾けて仕事をしている人たちはカッコイイけどバランスは取れていないだろうし、半沢直樹だってWLBなんて言っていたらドラマにはならない、と考えてしまう今日この頃です。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。