日本一の下足番

2011-05-31 執筆者:小倉 基弘

今の仕事は自分に合っていないから転職を考えている、営業はつまらないから「M&Aみたいな仕事がしたい」等ご自身の転職動機を話される方がいます。

特に新卒時に深く考えずに就職活動をして大企業に入られた方々(私もかつてそうでしたが)、また逆に不況時に就職活動をされて自分の意に沿わない形で就職をされた方々が数年後に上記のような思いを持って転職活動に入られることが多く見受けられます。

誰もが「これが私に一番合っている仕事だ」「これが自分自身の天職だ」と言えるような仕事にめぐり合えることは難しいことで、現実は日々行っている仕事に対して何かしらの不満を持ちながら働いている、というのがほとんどではないかと思います。

表題の「日本一の下足番」というのは、阪急グループの創始者、小林一三氏の言葉です。
「下足番を命じられたら日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」

当初、選んだ仕事、与えられた仕事がたとえ自分の意に沿ったものではなくとも、その仕事を前向きに受入れて無理矢理にでも好きになり、日々努力をしてゆけばパフォーマンスも少しずつでも上がってゆくはずです。そしてそれが、圧倒的に秀でたものとして周りが認めるようになればその時はさらに上の次元の仕事が与えられる、もしくは見つかるのではないでしょうか。

その努力をする前に他の機会を探そうとしても実力はついておらず、誰にも評価されないまま、再度、意に沿わない転職をしてしまうことになると思います。
そういった方々が転職活動をしている場合、採用企業からは
 やむを得ぬ事情があったにしても現職を選択したことを自己責任だと考えていないのではないか。
 会社の方針を理解する能力に欠けているのではないか。
 組織の中で人間関係を構築する能力に欠けているのではないか。
 総合的に観て成果を上げることができないのではないか。
と評価されてしまうことになります。

既にある仕事をしているのであれば、自分の好きな仕事を求めるよりも与えられた仕事を好きになり、まずそこで優れた成果を出すことが、逆説的ではありますが、新しい機会を掴む可能性を大きくすることになるのではないでしょうか。天職とは出会うものではなく、自ら創り出すものなのかもしれません。

現職で高い成果を出し続けている方が新たな機会を探されている場合、無理なく自然に転職が決まってゆくことが多いように思います。そういった方々は現職の機会の中で成果を挙げて、その枠を超えてしまっているのかもしれません。枠を超えるほど成果を挙げ、スキルを身につけた方には自然と次の機会が訪れるようです。
天職は英語でCallingというそうです。「神に呼ばれている」

現職で充分なパフォーマンスを発揮し、周りの人が「あの人が転職するのは当たり前だね」という状態になった時が転職の時期なのかもしれません。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。